大切な故人が眠っているお墓を閉じるということは大きな覚悟がいります。そして実際に行うにあたっては、丁寧に手順を踏んで行う責任もあるでしょう。
墓じまいを決意してから準備、実行に至る過程で省くことができないのが役所手続きです。誰であっても手続きなしにお墓を建てたり、移動したり撤去したりすることはできません。その根拠となる法律とは?
今回は墓じまい・改葬に関する役所手続きから留意点などをお伝えしていきます。
墓じまいの手続きはお墓のある自治体の役所窓口で行う
墓石を撤去してお墓を処分することを「墓じまい」、その後に他のお墓や納骨堂に埋葬・納骨することを「改葬」と言います。
墓じまいは、改葬の過程の一部と言えるでしょう。墓じまいの後の供養方法も様々で、最近では手元供養、散骨などお墓を持たない選択をする人も増えています。
このような墓じまい・改葬をする理由としては、遠方のお墓を近場に移すケースや、継承者がいないためお墓を閉じなければならないケースなどが考えられるでしょう。
墓じまい・改葬する場合には、法律で定められた手続きがあります。それを行う窓口は墓じまいをするお墓のある「自治体」になります。手続き書類の必須事項は決まっていますが、フォーマットや添付書類などは自治体により異なりますので、確認が必要です。
また、多くの場合は改葬先のお墓の管理者が発行する書類が必要になります。お墓の管理主体やお墓の状況によっても役所手続きの留意点が異なりますので、具体的にご紹介しましょう。
墓じまいをする予定の人は、お墓のある自治体のホームページをまずチェックしましょう。
「お墓の引っ越し」としてわかりやすく説明されているところもありますが、ほとんどの自治体では「墓じまい」という言葉は使われずに「改葬手続き」という言葉が使われています。
改葬とは、納骨しているお骨を他の墓地・納骨堂に移すことであると定義されています。そして手続きの担当窓口は、環境衛生課、福祉課、住民課、戸籍課など自治体によって様々です。
墓じまいの流れと役所手続き
自治体のホームページを比較すると、墓じまい・改葬の手続きが同じような案内になっていることがわかります。
事前の注意点として、親族と相談することや、改葬先の情報を確認することなどが共通して挙げられていますね。
墓じまい・改葬の流れと役所手続き、必要書類について一般的なケースをご紹介します。
墓じまいの一般的な流れと役所手続き
改葬の一般的な流れを、役所手続きの順に沿ってご紹介します。
新たに埋葬・納骨する墓地をどこにするのかを決めます。
改葬許可を申請するのは、墓じまいするお墓のある自治体になります。改葬許可申請書は自治体により様式が異なりますので、入手方法と併せて確認しましょう。
埋蔵証明は1枚の所定書類で行われる他、改葬許可申請書の所定欄で墓地の管理者が証明する形式の場合があります。また、墓地管理者の様式で提出可能とする自治体もあるようです。
<注意点>
・既存墓地の使用確認のため「墓地使用許可書」などが必要になる場合があります。
・墓地使用者と墓じまい・改葬の申請者が異なる場合は、委任状や承諾書等(墓地使用者が作成)が必要になります。
・埋蔵証明の発行手数料は、墓地管理者に確認が必要です。
申請は窓口の他、郵送も可能ですので確認ください。
<手続きに必要なもの>
・改葬許可申請書
・既存墓地の埋葬証明書。
・改葬先の受入証明書。
<注意点>
・申請者が墓地使用者と異なる場合のみ墓地使用者の委任状、又は承諾書が必要です。
・認印が必要な場合があります。
・改葬先の「墓地使用許可書」が必要になる場合があります。
改葬証明証は墓じまいする墓地管理者に提示しますが、提出しませんのでご注意ください。なお、お骨を取り出す前に閉眼供養などの儀式を行う場合が多いです。
改葬許可証を新しい墓地の管理者に提出し、お骨を埋葬・納骨します。
墓じまい・改葬の役所手続きで必要な書類について、それぞれ説明します。
改葬予定のお骨が、現在の墓地に埋葬されていることを証明してもらうものです。
現在のお墓の管理者やお寺に作成を依頼します。決まった様式がないことが多く、改葬証明書の所定欄に記入する場合があり、「埋蔵収蔵届」など呼び方も様々です。
埋蔵者の氏名等が不明の場合に「不詳」と記して認められる場合もありますが、古い戸籍を調べなければならない場合もあります。
墓地又は納骨堂など、改葬先があることを確認するための書類になります。
また、改葬先の墓地や納骨堂の管理者が作成する使用許可証、契約書の写しそのものが受入証明書になる場合と「受入証明書」として決まった書式が用意されている場合とがあります。
「改葬許可証」の発行を受けるために提出する申請書です。
埋蔵証明の欄があり記入・押印する場合もあります。お骨一体につき一枚提出が必要なところや、リストで添付という形式の自治体がありますので、書式の確認が必要です。
・死亡者の本籍
・死亡者の住所
・死亡者の氏名
・死亡者の性別
・死亡年月日
・埋蔵又は火葬の場所
・埋葬又は火葬年月日
・改葬の理由
・改葬の場所
・墓地使用者又は焼骨収蔵委託者の氏名
・申請者の住所、氏名、死亡者との続柄及び墓地使用者との関係
無料のところもありますが、住民票などの発行手数料と同等(300円前後)程度、費用がかかる場合があります。
墓じまい・改葬の役所手続きに不安を感じる人や、時間に余裕のない人は行政書士に代行を依頼する方法があります。
戸籍関係を確認しなければならないなど、煩雑な手続きが必要な場合には大変心強いのではないでしょうか。
それでは、代行依頼の事例を役所手続き中心に説明します。代行のメリット・デメリットも一緒にご参考ください。
代行一式9万円。
個別設定で①お寺への申し入れ・交渉・打ち合わせ=3~5万円、②受入証明書取得=2万円、③改葬許可申請(発行・受け取り)=5万円、④工事手配・工事立ち会い・お墓の返還手続き=3万円など。
書類作成・必要な場合の戸籍調査=3万円~。
書類作成・必要な場合の戸籍調査・許可申請・取得などの手続き代行=6万円~。
書類作成・必要な場合の戸籍調査・許可申請・取得などの手続き代行・寺院、石材店などの連絡や日程調整・お墓撤去の見積書取得・現地調査、立ち会い=13万円~。
- 複雑な手続きが不要になり、時間に余裕がない人、高齢で体力に自信のない人におすすめの方法です。
- 遠方のお墓を墓じまいする場合は行き来だけでも大変なので、現地の立ち会いまで頼めるのは大きなメリットでしょう。
- お寺や石材店との交渉までをお願いできるので、精神的な負担が軽減されます。
- 専門家に依頼するのですから、トラブルに巻き込まれるリスクが低いでしょう。
- 費用をまとめることができます。
- 当然ですが、自分で手続きするより費用がかかります。
- 墓じまいの代行業者が社外の行政書士に依頼する際に、無資格の人に代行させている悪質な業者が存在します。
業者選びは慎重に行いましょう。
お墓の種類と手続きが複雑になるケース
頻繁にお墓参りをしているようでしたら、お墓の使用者がわかっているでしょう。また、管理者との関係も良好なことが多いでしょう。
しかし、お墓が遠方でほとんどお参りに行けていない、遠縁の墓じまいを行わなければならないなどのケースがあります。
いざ、墓じまい・改葬を行おうとしたとき、お墓の管理者や使用者を確認しなければならないこともあります。そういった人のために、そもそもお墓にはどのような種類があるのかを以下で説明します。
まず、お墓の種類ですが、厚生労働省から平成12年に出された「墓地経営・管理の指針等について」で次の4つに分類されています。
- 地方公共団体が経営主体となり、申請に対する行政の許可によって使用が認められる公営墓地。
- 寺院に檀家のために設置された寺院墓地。
- 公益法人や宗教法人が経営する宗旨宗派を問わない事業型墓地。
- それ以外の墓地。
実は墓地の総数の約8割が共同墓地や個人墓地で、墓じまい・改葬の手続きも①~③より煩雑になるケースが多くあるようです。
ほとんどが、墓埋法施行以前に都道府県知事の許可を得て、墓埋法においても許可を受けたとみなされる墓地で(墓埋法第26条)、「みなし墓地」とも呼ばれています。自治体にある墓地台帳で情報を確認できますが、ない場合は無認可墓地の可能性があり、改めて許可を受けてから墓じまいの手続きが必要になるケースがあります。
お墓の種類の中で特に共同墓地や個人墓地は、役所手続きで留意しなくてはならないケースが多くあります。他に土葬などお墓の状態によっても注意点がありますので併せて説明します。
みなし墓地のうち、お墓の管理者・使用者が個人の所有になっているのが「個人墓地」です。この場合の改葬手続きは個人の署名・捺印での対応になります。
所有者がすでに亡くなっている場合は、その墓地のある役所窓口に相談します。所有者を変更後、改葬手続きが行えるようになります。
個人墓地は「昭和12年12月17日付警保局警発第154号通牒をはじめとする各種通達・通知において、明らかに特殊であると思われる場合(たとえば、「山間等人里遠く離れた場所で、墓地が存在していない場合」)を除いて、新設の許可は認められていません。
墓じまいしようとするお墓が使用者=所有者かどうか、祭祀承継者がいるのかなどの確認が必要になります。
お墓のある自治体で墓地台帳等の記録があるかを確認し、ない場合は無許可墓地の可能性がありますので対応を相談しましょう。
お骨が土に返っている場合は基本的に改葬許可は必要ありませんが、お骨が土に返っていたとしても遺品を取り出す場合は念のため、お墓のある自治体及び墓地管理者に改葬許可が必要かどうか事前に問い合わせて確認しておきましょう。
また、土葬したご遺体を火葬して元のお墓に戻す場合も改葬許可は必要ありません。
生前にお墓を建て、結果的にお骨を入れることがなかったというケースや、そのようなお墓を墓じまいをする場合には改葬許可は必要ありません。閉眼供養等の儀式を行うかどうかは自由ですが、建墓のときに開眼法要を行った場合や、閉眼供養を行う方が心情的に安心できるという人は実施を検討しましょう。
改葬には該当しませんが、特例として焼骨の現存する自治体で改葬許可の手続きをとります。
火葬後すぐに納骨せず自宅で保管していたり、墓じまいをした後に散骨したりする際の役所手続きの留意点を説明しましょう。
火葬後、しばらく自宅にお骨を保管するという人もいるでしょう。この場合は改葬に当たらず、はじめて納骨することになりますので、「火葬許可証」で納骨することができます。
お墓から取り出したお骨を自宅で保管したい、供養したいという場合は改葬に当たりません。しかし、改葬許可証を不要とするところや、改葬先を自宅にして改葬許可証を発行するところなど、自治体によって対応が違いますので、確認が必要です。また、いずれ納骨する可能性がある場合は、改葬許可証をとっておくことをおすすめします。
今あるお墓から一部のお骨を分骨する場合は、改葬許可は不要です。お墓の管理者から「分骨証明書」の発行を受けます。お墓の管理者に相談しましょう。
改葬許可は不要ですが、散骨する場所について該当自治体の条例を必ず確認しましょう。
自治体の改葬手続きについて、その根拠となっている⑴法令⑵施行規則をご紹介します。
全部で28条あり、改葬に関係する条文は第5条1、2項、第8条で、要約すると次の通りです。
- 改葬を行う人は市町村町(特別区の区長含む)の許可を得なければならない(第5条1項)
- 改葬の手続きは、お骨が現存する地の市町村町で行う(第5条2項)
- 市町村長が第5条の規定により改葬等の許可を与えるときは改葬許可証等を交付しなければならない(第8条)
墓埋法を施行するための細かいルールがこの施行規則です。全部で10条あり、改葬については第2条に具体的な申請内容などの規定があります。
- 法第5条第1項の規定を受けて、改葬許可を得ようとする者は、申請書を自治体に提出しなければならない(第2条)
必要とされている申請書の必須事項は次の7点です。
①死亡者の本籍、住所、氏名及び性別(死産の場合は、父母の本籍、住所及び氏名)
②死亡年月日(死産の場合は、分べん年月日)
③埋葬又は火葬の場所
④埋葬又は火葬の年月日
⑤改葬の理由
⑥改葬の場所
⑦申請者の住所、氏名、死亡者との続柄及び墓地使用者又は焼骨収蔵委託者(墓地使用者等という)
添付書類についても次の3点が明記されています。
- お墓の管理者が作成した埋葬の事実を証する書面(特別の事情のある場合は市町村長が必要と認めるこれに準ずる書面)
- 申請が墓地使用者以外の場合、墓地使用者の改葬承諾書やこれに対抗することができる裁判の謄本
- その他市町村長が特に必要と認める書類
要するに改葬するには、市町村長に改葬申請を行って許可を得ることが必要で、墓地の使用者以外の人が改葬申請を行う場合には墓地の使用者の承諾が必要ということになります。
墓じまいの撤去と処分に関する役所手続き
お墓の撤去・処分作業に関する書類もまた役所に提出する必要があります。
実施の記載部分は石材店などの業者にお願いすることになりますが、届け出主は当然、墓じまいを行う本人になりますので、内容について把握しておきましょう。
特に公営墓地では手続きについて細かく規定・公開されています。
一例をご紹介しましょう。
①墓地返還届書(実印捺印)
②墓地使用許可書
③印鑑登録証明書
④委任状(業者に委任する場合のみ)
⑤墓地年間使用料の領収書のコピー
施工前
①施行届書(施行の1週間前まで)
②施工場所確認書(写真添付)
施工後
③工事完成届書④完成写真台紙
- 傾斜のある墓地の場合など、基礎部分の撤去範囲が不明な場合は事前に相談が必要です。
- 工事にあたっては周囲へ充分配慮して、撤去後に隣接区画に影響が出ないような処置を必要に応じて行います。
- 万が一、周囲を破損したら直ちに管理者に連絡しましょう。
まとめ
墓じまい・改葬を行うには様々な役所手続きが必要なことを実感いただけたでしょうか。心配な場合は、信頼のおける行政書士や業者に依頼することをおすすめしますが、内容をしっかり把握しておきましょう。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |