日本での葬送の主流と言えば「お墓に納骨をすること」ですが、近年の社会情勢の変化に伴い、様々な事情で「墓じまい」を考えるご家庭が増えているのも事実です。
墓じまいをするには、決まった手続きや流れがありますが、持っているお墓が集落の共同墓地だった場合、公営や民営の墓地とは少し異なります。
今回は、共同墓地とはどういうものなのかと共同墓地の墓じまいについて詳しくご紹介します。
共同墓地とは?
墓地にはいくつかの種類がありますが、この共同墓地という言葉には2つの意味があります。
1つ目は、近年の葬送方法で増加傾向にある合祀墓や合葬墓のように、その家だけのお墓ではなく、複数の家庭の人たちが一緒に入るお墓のことです。
2つ目は、集落や村落など地域の共同体によって管理、運営されている墓地のことです。
こちらの内容について詳しくご説明します。
墓じまい後の納骨先として人気のある「合祀墓」ですが、このお墓を共同墓地とも言います。
複数の方の遺骨を一つのお墓に納骨する場合もあれば、生前、仲の良かった人たちでお墓を作るという場合もあります。
公営や民間の共同墓地であれば、お参り用の石碑や菩提樹など共同のスペースが設けられている場合もありますし、永代供養などのサービスを行っている共同墓地もあります。
合祀墓への納骨方法は、以下のように様々です。
- 骨壺に入れて納骨する
- 骨壺から出して合祀する
- 最初は、それぞれの骨壺に入れて納骨し、一定期間が経過したら骨壺から取り出して合祀する
継承者がいなくなるため、墓じまいをして共同墓地に納骨するご家庭に人気のある納骨方法です。
集落・村落といった地域の共同体によって管理・運営されている墓地のことも共同墓地と言います。
地域の生活に根差し、それぞれの地域で暮らす人たちの中で自然発生的にできた墓地ですので、「集落墓地」「部落墓地」「村墓地」と呼ばれることもあります。これらの共同墓地は、墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)が制定される以前に存在していたため、「みなし墓地」とも呼ばれています。
墓埋法の規定では、第26条に「この法律施行の際現に従前の命令の規定により都道府県知事の許可をうけて墓地、納骨堂又は火葬場を経営している者は、この法律の規定により、それぞれ、その許可をうけたものとみなす」と記載されていますが、集落の共同墓地は、許可がなくても墓地とみなすということです。
地域生活に密着している墓地なので、集落や住居の近いところに共同墓地が多くみられます。また、集落の大きさに比例して、墓地の規模も変わってきますので敷地の広さも様々です。
地域によっては、天理教やキリスト教といった限られた宗教のための共同墓地なども存在しています。
法的な扱われ方
「一般的な墓地」と「集落の共同墓地」の大きな違いは、法的な扱われ方です。
現在、墓地についての法律は昭和23年に制定された「墓埋法」で規制されていますが、集落の共同墓地は、この法律の施行前から存在しているため、特例としてこの法律に沿って運営しているのであれば、引き続き運営してもよいと認められています。
ただ、実際には法律と合っていない共同墓地が多く存在します。その内容は大きく分けて2つあります。
集落の共同墓地は、公営や民営の墓地とは違い、明確な管理者がいません。
墓埋法が制定された際に、共同墓地はみなし墓地として、行政の管理下に置かれたため名義上、公営墓地といて登録されていますが、実際の管理や運営は、集落の住民が共同で行っている場合が多くあります。
町内会や管理組合といった特別な権限のない住民が持ち回りで管理を行っているため、年ごとに管理者が変わったり、管理者によって管理方法が変わったりしてしまうのです。
集落の共同墓地の管理者が自治体である場合、自治体の条例で使用料や管理料が決められている地域もあります。しかし、多くの共同墓地は、地域住民によって決められている場合がほとんどで、その内容はまちまちです。
管理を行っているのが地域住民のため、草刈りや清掃、共用部分の整備など、住民や使用者が行うことで、管理料や使用料を低くしていたり、徴収しなかったりするところもあるようです。
集落に住んでいる住民のための墓地という性質もあり、新たに墓地の募集を行うところも少なく、開発費や広告費が必要ないというのも使用料と管理費が低額な理由でしょう。
その反面、管理者の特定ができず、トラブルに発展することもあるようです。
集落の共同墓地の問題点
お墓を持つということは、少なからず管理の手間や費用がかかってきます。どのような場所のお墓であっても他の人とのトラブルが発生することもありえますが、集落の墓地ならではの問題点があります。
この問題点は、お墓を維持する場合だけでなく、墓じまいをする時にも関わってくることがありますので、知っておいた方がいいでしょう。
公営や民営墓地ではみられない集落の共同墓地の問題点について3つご紹介します。
管理者が曖昧になってしまっている共同墓地では、共有部分の管理が行き届かない場合が多くあります。地域の共同体や自治会、町内会が管理者である場合、年ごとに管理者が変わってしまうのが現状です。
また、集落での高齢化が進み、管理者が分かっていても思うように維持管理ができない場合もあるのです。
集落の共同墓地は、営利目的で行われていることはほとんどありません。そのため、使用料や管理費の中でその時の管理者が整備を行う必要があります。
例えば、共用部分の壁や通路、水道などが破損したとしても民営墓地のようにすぐに修繕が行われるとは限りません。お墓参りの際に、破損を見つけて修繕のお願いをしようと思っても管理者が特定できないということもありえます。
一般的に、お墓には区画があります。公営や民営墓地の場合、区画をキチンと分けて整備し、区画の大きさによって墓地の費用を設定し、販売を行っています。
ところが、集落の共同墓地では、区画があいまいになっているところが多く存在します。区画の目印になるものがない墓地も多くあるのです。そのため、隣の区画の家族と土地に関するトラブルが起こりやすくなってしまうと言えるでしょう。
例えば、お墓参りの時のお供え物を自分たちの区画だと思って墓石のそばに置いたら、隣の区画だったり、風で散らばったお供えの花を自分たちの区画だからと思って片付けなかったり、ひどいケースでは、隣の区画にはみ出してお墓を建ててしまうということもあるようです。
集落の墓地へ数年ぶりにお墓参りに行ったら墓石が撤去されていたという話を耳にします。
お墓の管理者が特定できない場合、法律では1年以上、墓石に立て札などで掲示し、管理者である家族が名乗り出ない場合、お墓を撤去できると定められています。
墓地の管理者が決まっている公営や民営墓地では、お墓の管理者の情報が登録されているため、こういった心配は必要ありませんが、集落の共同墓地の場合、お墓の持ち主の名簿管理があいまいで、無縁墓として処分されてしまう可能性があるのです。
共同墓地の墓じまいの手続き
ここまでに公営や民間墓地と集落の共同墓地の違いについての話をさせていただききました。集落の共同墓地ならではの状況について理解いただいたと思います。
墓じまいを行う事情は、ご家庭によって様々ですが、そのお墓が集落の共同墓地にある場合と他の墓地にお墓がある場合とは少し手続きが異なってきます。
ここでは、墓じまいの手順と、集落の共同墓地での墓じまいで注意するべき点について手順に添って紹介します。
一般的に墓じまいのことを「改葬」と言います。これは、現在のお墓に納骨している遺骨の葬送の方法を別の方法に改めるという意味です。
改葬ですので、お墓から取り出した遺骨の新しい供養方法を決める必要があります。以前の改葬と言えば、新しくお墓を建てて納骨するというのが主流でしたが、社会の変化からお墓の継承者がいなくなるために墓じまいを考える方も増え、新しいお墓だけでなく、様々な葬送の方法が注目を集めています。
改葬先については、後述しますので参考にしてください。
墓じまいだけでなく、改葬先を決めるには、お墓に関係のある親族の理解を得ることが大切です。親族が集まる時に、皆さんの意見を聞いて同意が得られるように話し合いをし、改葬先を決めるようにしましょう。
墓じまいをするには、自治体での手続きが必要です。自治体の手続きを手順に添ってご説明します。
改葬先が決まったら、改葬先から受入証明書を取得しましょう。受入証明書の申請には、ご遺骨の名前と本籍、元のお墓の住所などが必要になりますので、あらかじめ調べておきましょう。
埋葬(埋蔵)証明書の発行は、集落の共同墓地の管理者に発行を依頼します。管理者がはっきりしている場合は、スムーズに依頼することができますが、「集落の共同墓地の問題点」でお話したように、管理者がはっきりしていない場合があります。そうした場合、まずは管理者を探す必要があります。その集落に住んでいれば探しやすいと思いますが、この作業が一番大変かもしれません。
自治体での手続きに、必ず必要な証明書ですので、集落の方に尋ねるなどして管理者の方を探し出しましょう。
埋葬証明書は、ご遺骨一体につき1枚必要です。
「受入証明書」と「埋葬証明書」が用意できたら、役所に行って、改葬許可証を申請します。申請する際は「改葬許可申請書」を作成します。
改葬許可申請書には、故人の命日や改葬の理由、埋葬された日付などを記入します。集落の共同墓地の場合、こういった日付の記録があいまいな場合がありますので、事前に調べておきましょう。また、改葬先が手元供養や散骨の場合、受入証明書はありませんので、改葬許可申請書の改葬先には、その旨、記入しましょう。
役所で改葬許可証が発行されたら、コピーを取っておきます。改葬許可証は「改葬元の共同墓地」と「改葬先」に提出する必要があります。
自治体での手続きが終わり、改葬許可証を受け取ったら、墓石からご遺骨を取り出しますが、勝手に取り出せるものではありません。
まず、「閉眼供養」や「魂抜き」「お性根抜き」と言われる供養を行います。
閉眼供養が終わったら、あらかじめ墓石の撤去を依頼しておいた「石材店」にお願いして墓石内から故人のご遺骨を取り出します。取り出したご遺骨は、改葬先によって扱いが変わってきます。
また、お墓から取り出した骨壺には、雨水がたまっていたり、長年、屋外に置かれていたご遺骨なので、バクテリアなどの菌類が付着している可能性もあるでしょう。いずれにしろ、まずはたまった雨水を抜き、乾燥をさせてあげる必要があります。
お墓からご遺骨を取り出したら、墓石の解体撤去を行います。
墓石の解体方法は、改葬の際に「新しく墓石を購入するのか」「今のお墓を改葬先の墓地に移すのか」によって変わってきます。
閉眼供養を行ったあとの墓石は、ただの石の塊ですから、撤去しやすいように壊してしまうことも可能ですが、新しい墓地に移転するとなると傷をつけないような配慮が必要です。
どちらにしても、すべて石材店が行ってくれますが、費用が大きく変わりますので、石材店に依頼する際には、必ず見積もりをもらい納得してから契約するようにしましょう。また、ご自身で石材店を探される場合は、数社の見積もりを取るのをおすすめします。
新しい供養方法
墓じまい後のご遺骨を新しい供養先に納めましょう。
墓じまいを行う理由は様々ですが、その理由によって新しい供養先を決めましょう。例えば、元のお墓が遠方のため、今住んでいるところの近くにお墓を移したいのであれば、新しいお墓を建てましょう。
ただ、お墓の継承者がいなくなってしまう場合や、維持管理費の負担が大きい場合は、お墓以外の供養方法を考えなくてはなりません。そこで、墓じまい後の供養方法についていくつかご紹介します!
都会への人口集中により、集落の共同墓地の周辺は高齢化が進んでいます。先祖代々のお墓が遠方にあり両親や親族も亡くなってしまうと、お墓の管理だけでなく年に数回のお参りの負担も大きく感じられるでしょう。その場合、遠方のお墓を墓じまいし、今住んでいる住所の近くにお墓を移したいと考える方も増えています。
また、少子化の影響で、夫婦双方のお墓の管理を行わなくてはならない家庭も増加傾向にあります。両家のお墓を同じ墓地に移せば、お墓参りの負担も少なく管理がしやすくなるでしょう。
新しく墓地を購入する時は、墓埋法により認可された墓地を選びましょう。
墓じまい後の改葬先として人気が高いのが「合祀墓」です。
合祀墓は、共同墓地とも呼ばれていて、他の家庭の方と一緒に納骨をしてもらうお墓です。最初のうちは骨壺に入れた状態で納骨を行い、一定期間経過後に骨壺から出して他のご遺骨と一緒に供養される場合もあります。
費用も比較的低価格で永代供養が行えることが人気のある理由です。ただ、他の方のご遺骨と一緒になってしまうため、一度、合祀墓に納骨してしまうと取り出せなくなりますので、注意が必要です。
「継承者がいない」「費用面の負担が大きい」などの理由で墓じまいを考えるご家庭には不向きですが、納骨堂への改葬は人気のある方法です。
人気の理由は、納骨堂と呼ばれる建物の中に納骨し、お参りも室内で行えるため、天候に左右されずお墓参りができることです。それぞれの家庭用に小さな仏壇があるところもあれば、共有スペースに機械でご遺骨が移動して来てお参りを行うところなど、様々なタイプの納骨堂があります。
ただ、納骨堂の場合、管理者の選定と管理費が必要です。
近年では、最初のうちは納骨堂で供養を行い、一定期間経過後に合祀するという霊園もあります。お墓参りに訪れる方がいらっしゃるうちは納骨堂、その後は合祀墓といった選択ができるというのがよいですね。
仏壇がなくても、チェストの上などのちょっとした場所を供養スペースとしているご家庭も増えています。墓じまい後の供養方法で、一番お金がかからない方法でしょう。
クリスタルの位牌や写真を入れたメモリアルスタンドなど、手元供養用の商品も多数販売されていますし、遺骨の一部を埋め込んでアクセサリーにするサービスもあるので、参考にしてみてください。
手元供養の場合、改葬許可申請の改葬先のところにその旨を書く必要があります。新しい改葬先が自宅なので、改葬許可証は不要になりますが、今後、お墓や納骨堂、合祀墓に納骨することも考えられますので、処分せずに書類は保管しておきましょう。
近年、注目を集めている供養方法が「散骨」です。年々増加傾向にあります。火葬後にお墓に埋葬する供養方法が一般的な日本で散骨は賛否両論ありますが、世界では古くから行われていた供養方法です。
散骨の主流は海に散骨をする海洋散骨ですが、山林散骨、空中散骨など様々な種類があります。
業者に依頼して船で外洋に出て散骨を行います。
業者に委託して散骨してもらうこともできますし、ご遺族が業者のチャーター便に乗ったり、ご自身の所有する船で散骨したりすることも可能です。
ただ、条例で禁止をしている自治体もありますので、ご自身で行われる場合は、事前に禁止されている地域でないかを確認しておきましょう。
お寺や霊園が所有する山林に散骨する方法です。ご自身の私有地であれば、散骨は可能ですが、近隣住民の方とトラブルにならないように注意しましょう。
大きなバルーンにパウダー状の遺骨を入れて、空中に飛ばす方法です。はるか上空でバルーンが割れて散骨が行われます。海外では、ロケットに搭載して宇宙に散骨をする宇宙葬というものもあります。
まとめ
集落の共同墓地を墓じまいする場合、一般の墓地での墓じまいと手順は同じですが、管理者が明確でないことで手間や時間がかかることが考えられます。
墓じまいを考え始めたら、共同墓地周辺の方とのコミュニケーションをはかり、管理者を見つけておくようにしましょう。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |