墓じまいを考えている方には、どのような事情があるのでしょうか?

「お墓の管理をするのが大変になってきた。」
「自分のあとにお墓を継いでくれる人がいないので将来が不安。」
「故郷にあるお墓をすぐに何とかしなくてはならないので、決断を迫られている。」

どのような場合でも共通しているのは「墓じまい後の遺骨をどうするか」まで検討しておく必要があるということです。これから墓じまいをして散骨しようとする方々へ、知っておきたい基本情報をお伝えします。

墓じまいをしてから散骨はできます

墓じまいをしてから散骨はできます

墓じまいとは?
お墓を片付けてさら地に戻し、墓地の管理者に返還することです。

そして、お墓から取り出した遺骨を、新しいお墓に移動することを「改葬」と言います。改葬先は、新しい墓石を購入する以外にも納骨堂や合同墓などがあるので、遺骨をどこに埋葬・納骨するかは選択ができます。

そしてもう一つの選択肢が「散骨」です。改葬とは異なり、お墓を設けずに遺骨は自然に撒きます。

散骨はまだまだ認知度が高いとは言えませんが、墓じまい後の供養の仕方としては、実績もあります。そして、今後増える可能性のある方法です。

散骨は違法ではないの?

散骨は違法ではないの?
そもそも散骨は違法ではないの?と、心配する方もいると思います。

現段階の法律的観点から言うと、散骨は違法でも合法でもないです。法律がまだ追いついていないという意味でも、節度をもって行えば基本的に黙認されていて、実績が積み上げられている段階というのが実情です。

最近では、自治体が条例で規制する流れが出てきましたので、散骨する場所については特に注意が必要です。散骨に関わる法律としては以下の2つがあります。

1.墓地、埋葬等に関する法律
第4条
「 埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に行ってはならない」
→墓地以外の埋葬を禁止している条項ですが、散骨は埋葬ではないのでこれには抵触しません。
2.刑法
第190条
「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する」
→刑法は犯罪の防止のために作られているので、祭祀に関することは想定外と考えられています。

ただし、遺骨をそのまま撒くと罰せられる可能性があるので、粉骨をする必要があります。

「節度をもって」とは何でしょうか?
環境への配慮をすること、他人の所有する土地には撒かないこと、条例による規制を遵守することなどが挙げられるでしょう。

慣習によるところが大きい祭祀儀礼については、厳密にルール化するのは大変難しいことなのです。現段階では、経験豊かな信頼できる業者を見つけて、的確なアドバイスを受けながら散骨を行ったほうが安心ですね。

墓じまいをする理由

墓じまいをする理由
お墓の事情は、人によって本当に様々ですが、墓じまいをする理由は主に2つ考えられます。

1.故郷のお墓を自分の住居近くに移すケース

生まれた場所に生涯住み続ける人は少なく、今や海外へも自由に行き来し移住する時代です。恐らく、この状況は今後も変わらないと思われます。

自分の住居近くにお墓を移したとしても、また同様な状況に陥らないという保証がないので、正直なところ根本的な解決にはならないでしょう。

2.お墓の継承が難しいケース

この場合の改葬先は、継承の心配のいらない永代供養のお墓や納骨堂、合同墓などが多く選ばれています。同様に継承問題を解決する供養方法として、散骨を選択する人もいるのです。

墓じまいをして散骨をする理由

墓じまいをして散骨をする理由
墓じまいをして散骨する理由は、大きく分けて2つ考えられます。

  • 今あるお墓の管理をするのが難しくなったため、喫緊の問題として墓じまいを行い、その遺骨を散骨するケース
  • 自分自身に散骨の希望があり、その責任から既存のお墓の墓じまいを行い、散骨をするケース

言い換えると、前者は「お墓の問題を解決をしたい人」で、後者は「故人と自身の散骨を希望している人」になるのかと思います。また、後者は「終活の一環として、お墓の問題を計画的に進めている人」とも言えるでしょう。

前者の場合も、当然ながら自分が入るお墓がなくなるので、自分自身のこともなるべく早く考えておく必要がありますね。

両者の違いは決断のタイミングだけとも言えますが、どちらにしても問題を先送りにしないという点では共通しています。

日本人の平均寿命がさらに延びたことをご存じですか?

令和元年の生命簡易表によると・・・
・男性の平均寿命は 81.41 年
・女性の平均寿命は 87.45 年

人生100年とも言える時代になりましたね。そんな状況ですから、前世代と自分自身と次の世代と、お墓を取り巻く環境が大きく変わっていくのは当然のことでしょう。

墓じまいをして散骨をするという方は、一世代限りでなく自分の前後の繋がりでお墓のことを考えて行動している人です。これからは誰もがこのような意識をもつことが、大変重要になってくるのではないでしょうか?

自分自身の散骨を叶えるために

自分自身の散骨を叶えるために
墓じまいをしようと考えている人は、同時に「自分自身のお墓をどうするか」を決めて、残される家族に伝えておかなくてはなりません。それは今後の家族への優しさとも言えますね。

既に自分自身は散骨してもらいたいと決めている場合は、伝える手段と実現してもらえる方法を考えておくことをおすすめします。

まず、口頭で伝えて、その後に「エンディングノート」に書く方法が考えられます。エンディングノートの存在を周知しておくことも忘れないでくださいね。

もっと確実に実行してもらいたいと望む場合には、次の3つの方法があります。

1.遺言書に書く

遺言書にそのまま書いてもいいのですが、祭祀儀礼については法的拘束力がないので、遺贈などの付言事項として散骨の希望を書くことをおすすめします。その方が実現してもらえる可能性が高くなるでしょう。

2.遺言執行者・祭祀継承者を指定しておく

予め遺言執行者または祭祀継承者を指定します。その方とは日頃から信頼関係を築き、散骨することの賛同を得ておいてください。そうすることによって自分の死後、よほどのことがない限り実現してもらえるのではないでしょうか。

3.生前予約をする

散骨業者と生前予約の契約を結びます。契約によっては遺言書を書くことが求められる場合があります。この場合、業者の永続性に保証がないということが難点ですね。

いずれにしても家族には、散骨の希望を伝えて賛同を得ておきたいところです。書類や手続きなども大事ですが、日頃から周囲とよく話し合って理解してもらうことが最も大切なことでしょう。

墓じまいと散骨 メリットと注意点

墓じまいと散骨 メリットと注意点
お墓の管理は長きに渡るもの。どうしても続けることができないという場合が出てきます。

その様な「どうにもならない事情」と向き合いながら、皆が幸せになる方法として考え出されたのが「永代供養墓」や「合同墓」であると言えるでしょう。そして、その流れの中から「散骨」という方法も出てきたのです。

その散骨には、どのような方法があるのか、メリットとデメリット、注意点などを検討材料として確認しておきましょう。

また、墓じまいを近いうちに行おうとしている方は、今あるお墓の経営主体はどこなのか、お墓の種類についても確認しておきましょう。

それぞれの内容について詳しくご説明していきます。

散骨の方法

散骨は、火葬後に遺骨を粉状にして海や山にまく葬送方法です。「自然葬」とも言われています。

現在の主流は海洋散骨ですが、他にも散骨する場所により様々な方法があります。

海洋散骨

海洋散骨
映画やドラマでも遺骨を海にまくシーンがよく見られるように、散骨というと海洋散骨というイメージが定着しつつあります。

海洋散骨は、家族単位または合同で、チャーター船に乗って沖に出て散骨をします。業者によっては代行依頼をすることもできます。また、個人で行う方もいますが、業者に依頼するのが一般的です。

山林等への散骨

山林に遺骨をまく方法ですが、私有地にまく場合は許可を得る必要があり、海洋散骨よりもハードルが高くなります。

最近では一島を買い上げて散骨を行っている業者も現れました。遠くからの利用者も増えているそうで、散骨の需要が高いことがうかがえます。

空中散骨

飛行機、ヘリコプター、バルーンなどで空中に遺骨を運んでまく方法です。遺骨は広範囲に大気中に広がっていき、空に憧れる人にとっては夢のある方法と言えるでしょう。

最近ではドローンなどを使って散骨を行う業者も出てきました。

樹木葬は散骨ではない

樹木葬は散骨ではない
自然葬らしい名称で「樹木葬」という葬送方法が有名です。

樹木葬とは?
墓石の代わりに樹木を墓標として遺骨を埋葬する方法です。

遺骨をまく散骨とは違う方法になりますので、ご留意ください。

散骨のメリットとデメリット

散骨にはどのようなメリットがあるのでしょうか?また、考え方によってはそれがデメリットにもなる場合がありますので、それらを含めてご紹介します。

将来を見据えると遺骨が残らないのは安心感がある

将来を見据えると遺骨が残らないのは安心感がある
遺骨が残らないということは、その後、誰かの世話になることが一切ないという安心感があります。それが一番よい方法だと本人だけでなく、周囲も納得できれば最大のメリットになるでしょう。

ただ、散骨をしてから後悔をしても遺骨は戻ってきません。当然ながら本人だけでなく周りの人が納得するまで話し合いましょう。

お墓の管理をする必要がなくなる

永代供養墓などでは管理料の支払いが必要な場合もありますので、今のところ管理がゼロと言い切れるのは散骨だけでしょう。

一方で、手を合わせる・花を手向ける場所がないと戸惑う気持ちが出てくる場合があります。お墓でなくても何かほかのもの(例えば、モニュメントや記念の場所)でもよいと割り切れるかどうかがポイントになります。これは考え方によってメリットにもデメリットにもなる大きな点ですね。

自然に還る安堵感が得られる

その人の価値観によるところが大きいですが「自然に還ることに憧れる」多くの日本人には受け入れられやすいメリットなのではないでしょうか。

費用負担が少なくなる

費用負担が少なくなる
費用選択の幅があり、希望にそった方法がとれて、全般的に費用負担が少ないのが散骨です。

ただ、総合的に考えた上での決断であるのにも関わらず、費用面だけの安易な選択ではないかと思われる場合があるかもしれません。その時は墓じまいも行って散骨することを強調しましょう。強い意志で計画的に行っていることが伝わります。

以上のように散骨のメリットとデメリットをお伝えしましたが、墓じまいをしようとする方の理由と照らし合わせると、散骨は受け入れられやすい部分が多いのではないでしょうか?

お墓の種類と墓じまいの注意点

「墓地」と一言で言っても、経営主体の違いなどで様々な種類があることをご存じでしょうか?

墓じまいを考える人の中には、お墓の世話を続けてきた人ばかりではありません。身内のいない故郷にお墓があり、現状がよくわからないという方も多くいます。

そのような方のためにも、墓地の種類について基本的なことをお伝えします。

公営墓地

公営墓地は、自治体が運営する墓地です。

利用申し込みができる人に制限がありますが、宗教による利用制限はありません。人気のある墓地では抽選になる場合もあります。最近では、無縁墓地の対策として共同墓地を建てるところが増えました。

契約書や墓地管理規定が必ずありますので、墓じまいのときは確認しましょう。

寺院墓地

寺院墓地
寺院墓地は、寺院が経営する墓地です。また、お寺が管理する永代供養墓の場合は、宗派不問の場合が多いようです。

契約する際は、檀家になるのが基本です。古くから檀家関係を結んでいる場合は、契約書がない場合もあり得ます。

「墓じまい=檀家をやめる」ことになるので、それに関連するトラブルがよくあります。墓じまいを円満に行うには、誠意ある対応とコミュニケーションが大切です。

民営墓地(霊園)

民営墓地(霊園)は、公益法人や宗教法人が運営する墓地です。また、宗教は問われない場合が多いです。継承に不安のある人には、永代供養墓が用意されている場合もあります。
墓じまいの際は契約書をまず確認してください。

以上、3つのお墓は、法律のもと認可され、自治体や法人のみが経営できることになっている墓地です。

お墓を個人で作ることはできないの?
墓地には公益性や永続性が求められているので、現在は団体にしか許可されていません。ただ、昔からある「みなし墓地」だけは個人名義の墓地として存在します。
みなし墓地について

みなし墓地について

みなし墓地とは?
昭和23(1948)年に「墓地、埋葬等に関する法律」が施行される前からある墓地のことで、主に村・町の共同名義や個人が所有する墓地のことです。

また、みなし墓地の数は意外と多く、平成17年度には「墓地総数873,441件」に対して「個人墓地662,473件」と全体の約76% も存在しています。

現在は個人の敷地内に新たにお墓を設置することは、ほぼ認められていません。そのため、みなし墓地の多くは古いお墓で、誰のお墓かわからないといったケースも多いです。

個人の敷地内に新たにお墓を設置することが認可されるケースとは?
人里離れていて近くに公共の墓地がないなど、かなり厳しい条件をクリアできる場合のみです。そして認可は自治体の長が行っています。

共同墓地の方は、村の共同名義になっている場合が多く、墓じまいをする場合はその共同体の規定に従うことになります。個人のみなし墓地の中には、管理状態がわからない、あるいは無許可の場合もありますので、行政窓口で墓地台帳を一度確認してみましょう。

もし無許可の墓地であると判明した場合は、速やかに許可を取ることをおすすめします。その後で墓じまいの手続きを行ってください。この場合、「改葬許可証」の発行を自分の印で申請することになります。

散骨の場合、改葬許可証は必要ないケースが多いですが、一度認可を受けてから改葬許可証を発行しておくと、将来何かあったときの助けになるでしょう。

墓じまいをして散骨する人は増えている?

墓じまいをして散骨する人は増えている?
墓じまいや散骨の統計資料は、残念ながら今のところ存在しないようです。そこで、公式統計の改葬件数や、お墓の購入実態に関する調査結果などから推測してみました。

改葬件数について

厚生労働省「衛生行政報告例」で確認しますと、2000年に約6.5万件だった改葬件数は2018年には約11万件と、8年間で2倍弱増加していました。

この数に無縁墓への移動が含まれていないことを考えると、お墓を自主的に移す人は確実に増えていると言えますね。また、この改葬件数は実質「墓じまい」の数で、改葬先については読み取ることができません。

お墓の購入に関する調査

お墓の新規購入の中で、改葬のために購入するお墓の割合が減ってきているとのことです。

これらの結果から言えるのは、改葬(実質は墓じまい)の件数が増えている一方で、改葬先として「お墓」ではない方法が増えている表れではないかということです。

さらなる推測にはなりますが、その中で改葬先に散骨を選択するケースも含まれているのではないでしょうか?

因みに、お墓選びで重視することについて、2017年には「自宅からのアクセス」が最も多かったのに、2018年と2019年には「お墓の種類」がトップになったそうです。

お墓の多様化が見て取れますし、それと伴に散骨を選ぶ人も今後増えるのではないかと予想されます。

公営墓地の事例

公営墓地の事例
改葬に関するお墓の動態調査が、ある保健所管轄内の複数の公営墓地について行われたそうです。この研究調査の目的は、無縁墓の実態を明らかにすることでした。

この中で副次的に分かったことは、「墓じまい後の遺骨の行方が不明なケースが相当数ある」ということです。それは、墓じまいのために出された改葬許可の件数よりも、改葬の受け入れ件数の方が少ないということです。

残念ながら行方がわからない遺骨についての実態は、明らかにできなかったとのこと。

墓じまいや散骨の数を把握する困難さはこの調査にもあって、推測の域は出ませんが、やはり行方不明の遺骨の中には、散骨が実施されたケースもあるのではないかと推測されます。

研究調査の主目的である無縁墓の実態についても、興味深い結果があります。それは、「無縁墓対策の合同墓を設置すると、合同墓地のないところから移動してくる数が増える」ということです。

そして墓地返還の理由としては、以下の3つが挙げられます。

①承継者がいない
②承継者の転居に伴う移転
③新しい葬法の選択

自治体の墓地担当者の所感を集計した結果ですが、③については、もう少し詳しい内訳を知りたいところですね。それでも墓じまい後の遺骨の行方が多様化している実体は明らかになっています。

まとめ

1.散骨は現在違法とは言えず、墓じまいをして散骨はできる。
2.喫緊問題として墓じまい・散骨をする人と、終活として故人と自身の散骨を行う人がいる。
3.散骨のメリットを考えると、墓じまいを計画中の人に散骨は受け入れやすい。
4.墓じまいをする場合は契約書等を確認し、個人のみなし墓地の場合は墓地台帳を確認する。
5.改葬件数が年々増えていて、墓じまいをしてから散骨する人も増えると予想される。

墓じまいから散骨をする場合、適切なタイミングがそれぞれありますが、長いスパンで捉えて計画的に行うことが大切でしょう。

これから墓じまいをして散骨しようとする方々に、少しでも参考になりましたら幸いです。

著者情報

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未来のお思託編集部
散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。