墓じまいは祭祀継承者によって行われますが、祭祀継承者の独断で進められるものではありません。親族間での話し合いと協力、費用の工面などが必要で、準備だけでも時間がかかるものです。

もし、祭祀継承者が途中で認知症を発症すると計画が狂うどころか、墓じまいが進行されている途中なら先に進められなくなる可能性があります。

認知症は、年齢や性別を問わず発症する病気です。今回は特に祭祀継承者が認知症になった場合のことを考えて、家族や親族に託して墓じまいを進める方法をご紹介します。

認知症と物忘れは違う?

認知症と物忘れは違う?
人の名前を思い出せないなど記憶力が低下するのは物忘れで脳の老化によるものですが、認知症は色々な原因で脳の細胞に障害が起こる病気で、症状が進行すれば社会生活や対人関係に支障を及ぼします。

例えば、物忘れは食事したことは覚えているが何を食べたか忘れるというように「体験したこと」は覚えている状態です。認知症は、食事したことを忘れてしまうので「体験したこと自体を忘れる」症状です。

認知症には種類が4つあります。

  • アルツハイマー型認知症
  • 脳血管障害型認知症
  • レビー小体型認知症
  • 前頭側頭型認知症

また、65歳未満で発症した場合は「若年性認知症」と呼ばれます。

なお、日常生活の中に以下のような項目を取り入れると認知症予防になると言われています。

  • 頭を使う習慣
  • 体を動かす習慣
  • 社会と関わる活動
  • バランスが整った栄養を摂る

予防をしても「物忘れが多い」「新しいことを覚えられない」「様々な段取りが悪くなってきた」などの自覚が増えてきた場合は、早めに専門医や物忘れ外来、若年性認知症コールセンターなどに相談することをおすすめします。

認知症になったら簡単に墓じまいできなくなる!?

認知症になったら簡単に墓じまいできなくなる!?
墓じまいは、お墓の「祭祀継承者」によって行われます。もし墓じまいの準備を行っている途中で、祭祀継承者が認知症を発症し、症状が進行するとどうなるのでしょうか?

初期の段階では可能であった、意思確認や財産などに関する判断ができなくなってしまいます。墓じまいの準備を進めていること自体、忘れてしまう可能性もあるでしょう。

また、墓じまいの費用として予定していた、預貯金や不動産などの財務管理する能力が衰えることも少なくありません。認知症になり意思の確認が全くできなくなれば、当人の財産が凍結されることがあります。財産が凍結されると、当人であっても預貯金をおろすことも財産を売買することもできなくなります。

ただし、認知症と診断されたからといって、全ての法律行為ができなくなるわけではありません。初期症状で本人確認や署名捺印の際に判断能力があり意思確認が可能であれば、契約などの法律行為は可能です。

墓じまいは、親族やお墓に縁のある人がほかに誰もいない場合は別ですが、家族や親族と話し合い、寺院などの協力がないと行えないので、長い期間を要します。

今現在は全く問題なくても、認知症は年齢や性別に関係なく発症する可能性がありますので、もしものことを考えて、墓じまいを思いたったら、早いうちに家族や親族と相談する機会を持ちましょう。

話し合いの際、万が一認知症を発症、症状が進行してしまったときは、墓じまいを誰に託すのかなどを決めておくことをおすすめします。

墓じまいは全てにおいて余裕があるうちに話し合うことが大切

墓じまいは全てにおいて余裕があるうちに話し合うことが大切
墓じまいを決断したら、心身ともに健康で、金銭面にも余裕があるうちに始めることをおすすめします。なぜなら、墓じまいを行うには、家族や親族との話し合いを行わなければいけません。この話し合いに長い時間がかかることもあるからです。

まずは、「なぜ墓じまいを行いたいのか」理由を説明し、家族や親族の意見を聞く必要があります。

反対する側にも考えがあります。

  • お参りする対象がなくなることが寂しい…
  • ご先祖さまに申し訳ない…
  • お墓参りするために里帰りしているのに…

など理由は様々でしょう。また、祭祀継承者を交代してお墓を存続させたいと考える人もいるかもしれません。

双方の気持ちを汲み取りながら説得するには、時間がかかることを念頭に置き、焦ったり急かしたりしないで済むようにしましょう。

親族から墓じまいの承諾が得られたら、次にお墓の遺骨をどうするか考えなければいけません。

  • 納骨堂や共同墓も視野に入れた「永代供養」
  • 手元供養を視野に入れた「散骨」

など選択肢はいくつかありますが、どれにしても費用がかかります。また、環境、交通の便、移す先の施設の設備、管理、価格など実際に現地へ足を運んだり、利用している人の評判を調べたりしなくてはならないでしょう。

そして、菩提寺など寺院へ相談したり、石材店へ相談したりする時間やそれに伴った費用の工面も必要です。

もし認知症のほか、病気やケガで介護や入院が必要になったら、入院費や介護費用も捻出しなければなりません。時間と金銭のことを考えると、墓じまいを思いたったら、早めに準備する必要があるのです。

生前整理で墓じまいについて考える

生前整理で墓じまいについて考える
「生前整理」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

遺品整理は、遺族にとって精神的だけはなく肉体的にも負担になることが多いです。その点、生前整理は家族と一緒に行うことで、のちの遺族の負担を軽くすることができます。家族と一緒に生前整理をすると、墓じまいを含めて介護、相続について話し合う時間を持てるかもしれません。

複数のクレジットカードや金融機関をまとめることも生前整理です。通帳をまとめることにより、お金の管理がしやすくなり、またお金の出入りが明確化されます。資産やお金の出入りを明確にすることで、介護や墓じまいにかけるお金をどうするのか、またはどれくらい余裕があるのかが分かり、より具体的に計画が立てやすくなるでしょう。

片付けをしているなかで旧友との再会や、元気なうちにやりたいことが見つかるきっかけになるかもしれませんね。

なお、生前整理の仕方が分からない場合や家族との話し合いがしづらいという場合は、プロの手を借りるのもよいでしょう。「生前整理診断士」に相談すれば、物の片付け、介護、葬儀、お墓を含めた相続などについてアドバイスがもらえます。

第三者が間に入ることで感情的にならずに話し合うことができるだけでなく、最適な介護や相続の方法、認知症などになったときはどうするかなど早いうちから何かあったときの備えができるでしょう。

生前整理を心身ともに元気なうちに行うと、心配事が殆どない老後が過ごせるのでおすすめです。

墓じまいの手順と費用

墓じまいの手順と費用
墓じまいの具体的な手順や費用が分からないという人も多いでしょう。

墓じまいは全てが終わるまで、最低でも数ヶ月かかります。費用は、供養方法やお布施などで異なりますが、相場は約50万円~約150万円ほどです。

想像以上に時間と費用がかかると感じた人ほど、早めに墓じまいを考えることをおすすめします。

墓じまいの流れ
  1. 親族や寺院に相談し、承諾を得る
  2. 遺骨の供養方法を決め、供養先から受入証明書を発行してもらう
  3. 石材店から見積もりを取り決定する(寺院や霊園の指定の場合がある)
  4. 行政の手続きを行う(改装許可申請書、改装許可書、埋葬(埋蔵)証明書の手続き)
  5. 寺院や霊園及び石材店と日程調整、墓石の撤去や墓地の整地を行う
  6. 遺骨の供養
墓じまいの費用
  • 墓石の撤去及び整地・・・約8万円~約15万円
  • 閉眼供養・・・約3万円~約10万円
  • 行政手続き・・・無料~約3千円
  • 遺骨の供養・・・約3万円~約150万円(供養方法により異なる)
  • 離檀料・・・約10万円~20万円(相場はお布施の2~3倍)

認知症になった後、墓じまいを引き継いでもらうには?

認知症になった後、墓じまいを引き継いでもらうには?
もし認知症を発症しても、墓じまいを諦める必要はありません。症状が全くない健康なうち、または症状があっても軽度なうちに法的手続きを利用して、家族を含めた第三者に託す方法があります。

認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が低下した人の代わりに財産の管理、介護サービスや施設の手続き、相続についての協議などを代わりに行ってくれる制度です。この制度は大きく分けて2つあります。

  • 成年後後見制度
  • 家族信託(民事信託)

どちらもある程度の費用がかかり、メリットとデメリットがあります。それぞれの詳しい内容については、後述しますのでそちらを参考にしてください。

なお、どちらの制度を利用するにしても、配偶者を後見人に選んだり信託契約したりすることは避けた方がよいです。認知症になった者の介護が忙しくなり墓じまいどころでなくなる、介護者側も認知症を発症してしまうといったことがありえるからです。

成年後見制度

成年後見制度
成年後見制度には種類が2つあり「法的後見制度」と「任意後見制度」があります。

法的後見制度

認知症と分かった時点で、家族や親族または周囲の人が家庭裁判所に申し立てます。後見人には、弁護士、司法書士、社会福祉士などの第三者から選任されることが殆どです。

専門職後見人費用として毎月2万円~6万円(財産額などにより異なる)後見人に支払います。もし、親族が選任されたら後見人を監督する後見監督人が第三者より選任されます。この場合は後見監督人に対しても毎月1万円~3万円の支払いが必要です。

また、不動産の売却など法的行為を行ってもらう場合は、追加報酬を請求される場合があります。

任意後見制度

心身ともに健康なうちに、後見人の指名が可能で任意後見契約校証書を締結します。認知症で判断能力がなくなったら、指名された任意後見人が家庭裁判所に申し立て、任意後見監督に選任されたとき効力が発生する制度です。後見人は複数人指名可能で金銭管理、介護に関することなど役割を分けられます。

共通の注意点

手続きを行う費用は収入印紙、切手、登記手数料などですが、提出書類が多く手続きが複雑で時間がかかります。本人の利益にならない出費は、裁判所は出金を認めません。リフォームや資金運用、墓じまいなどの出費は、認められない可能性が高いです。

そして、一度制度を利用し始めたら、認知症になった人が亡くなるまで辞めることができません。死後事務委任契約を結ぶことも可能ですが、その場合、家庭裁判所の許可を取ってからでないと火葬や埋葬葬儀の費用を出金することができません。

家族信託(民事信託)

家族信託(民事信託)
家族信託は、意思の確認ができる状態のうちに家族や親族など信頼できる人と契約します。受託者は、預かった預貯金などの財産から、リフォーム費用や葬儀費用、配偶者の介護費用などの支払いができます。また、不動産の売却や賃貸なども可能です。自分の死亡後、配偶者が死亡したときの財産の分配について指定できます。

ただし、信託契約できないものがあるので、事前にきちんと調べる必要があります。それでも家族信託は、柔軟な対応が可能なので、墓じまいに関しては成年後見制度よりおすすめです。

家族信託は、まだ新しい制度なので家族信託に詳しい弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談し設計してもらうと心強いでしょう。

費用について

専門家に相談依頼する場合は、財産額の1パーセントを支払う必要があります。不動産などの名義変更を行う場合は司法書士に対する費用、公正証書を作成する場合は公証人に費用を支払わなければなりません。

まとめ

1.認知症は物忘れとは違い、病気である
2.墓じまいについて認知症になる前に親族と話し合う
3.認知症が進行してしまうと墓じまいは簡単に行えなくなる
4.家族信託(民事信託)で墓じまいを引き継いでもらう方法がある

人はいつ認知症を発症するか分かりません。薬で病状を遅らせたり改善したりする場合もありますが、殆どの場合完治は難しいでしょう。

認知症になると、墓じまいを行おうとしていたことも忘れてしまう可能性がありますので、心身ともに健康なうちに準備しましょう。

自分や家族だけで進めるのが難しい場合は、墓じまいを取り扱っている信頼の置ける業者や家族信託に詳しく実績のある専門家に相談することをおすすめします。

著者情報

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未来のお思託編集部
散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。