遺言に「散骨をお願いしたい」と書いたとして、この切なる希望は叶えられるでしょうか?

のこされた家族に叶えてもらうためにおさえておきたいことは何でしょうか?あるいは、家族がいなくても散骨してもらうことはできるのでしょうか?

散骨をしてほしい場合に具体的に何をしたらよいか分からない方に向けて、

  • 遺言書への文言の入れ方
  • 遺言書の作成する場合に各専門家とどうつながればよいのか
  • 散骨と遺言にまつわる手順や各方法の長所・短所について

など紹介していきます!

遺言で散骨してほしいという思いを伝える

遺言で散骨してほしいという思いを伝える
「散骨してほしい」という思いは、自力では叶えることができないので、どなたかに伝えなければなりません。その方法の一つとして、遺言があります。

民法は、第一編~第五編まで、総則、物権、債権、親族、相続と分かれ、それに附則がつきますが、遺言は第五編・相続の「第七章・遺言」960条~1027条に書かれています。

遺言の方式は、この第七章の冒頭に
「第九百六十条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」
と定められています。

また、遺言の方式には、「普通の方式」と「特別の方式」があります。
「第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない」

特別の方式には、

  • 死亡の危急に迫った者の遺言
  • 伝染病隔離者の遺言
  • 在船者の遺言
  • 船舶遭難者の遺言

が当てはまります。

亡くなった後、ご家族が遺言書を発見したら、次の内容に従って対応をします。
「第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2.前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3.封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない」

遺言書には法的拘束力をもつ項目ともたない項目がある

遺言書に書き残したとしても遺言として法的拘束力がある「遺言事項」は主に相続分関係の3つです。

  • 1.財産の相続・遺贈関係
  • 2.認知などの身分関係
  • 3.相続権を剥奪

遺言書に「散骨をお願いしたい」と書いても法的な効力はなく、相続人に思いを残す範囲の扱いになります。

ただ、法律の附則に重要な内容が書かれ、そこが本則の円滑な運用のためには不可欠な規定であり、見落としてはならない法律の重要な構成部分であることは知られています。

遺言書に関わる法律専門家は遺言書に「法的拘束力のない付言事項」として「気持ち」を書くことをおすすめします。付言事項には、法的な遺言として拘束力といったものはありませんが、相続・遺贈内容とともに付言された想いは遺族に確実に届き、一定の効果が期待できます。

付言事項は、例えば相続関係者の何らかの争いを回避などにつながると考えられています。

付言事項に書く内容の例
  • 相続分を指定した理由
  • 親族・家族の融和
  • 家業の今後のあり方
  • 葬式の形や仕方、埋葬方法
  • 角膜や臓器、遺体の提供

専門家に遺言書作成を相談するメリット

遺言書の作成方法には、主に「自筆による方法」と「公正証書による方法」があります。

公正証書による方法とは

専門家に遺言書作成を相談する方法です。専門家にお願いした場合のメリットは小さくなく、一度は相談してみることをおすすめします。

自筆による方法では、誤記により遺言書全体が無効になることもあり得ます。紛失、盗難、相続人による破棄の恐れもあります。

公正証書による方法では、公証人によるチェックにより遺言書が無効になることもなく、公証役場に原本が保管されるため紛失の恐れもまぬがれます。
遺言書作成を請け負う専門家には、

  • 弁護士
  • 司法書士
  • 行政書士
  • 税理士

などがあり、信託銀行や葬送業者にお願いする方法もあります。

弁護士に遺言書作成を相談する

弁護士に遺言書作成を相談する

弁護士に遺言書の作成を依頼する場合の大きなメリット

法的なトラブルにも対応してもらえることです。弁護士はどのように書けばトラブルに発展しないかなどの専門性が高いため、遺言書に入れる文言を協議して事前に対策をとることができます。

後日、相続者間にトラブルが発生した場合でも、対応不可ということにならずにお願いすることができます。遺言書に財産の分け方を記載する場合、まずはどんな財産にどれだけの価値があるのかを調査しなければなりません。

法定相続分に則って分ける、贈与分がある、あるいは分割しにくい不動産などがある場合の対処法などまで相談をすることができます。

遺言書には、

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

があります。

秘密証書遺言

遺言の存在だけを保証するもので遺言内容については保証されませんが、その代わり、遺言内容は公開されません。

自筆証書遺言

ルールに則れば簡単に作成できますが、開封時に結局人の手を煩わせて「検認」が必要になったり、知らずに開けて罰金が必要になったりといったことがあります。

弁護士が作成し公証役場に保管される遺言書となる「公正証書遺言」は最も安心といえます。

司法書士に遺言書作成を相談する

司法書士に遺言書作成を相談する

司法書士に遺言書作成を依頼する場合のメリット

司法書士は法務省の管轄であり、不動産や商業の登記を中心として裁判所、検察庁、法務局に提出する書類の作成を行うことができます。また、難関の司法書士に合格した後、厳しい研修を経て法務大臣から認定を受けた司法書士は、140万円以下の簡易裁判所訴訟の代理を行うことが可能です。

遺言書を自分一人だけで考えるのではなく、司法書士に作成を依頼した場合、遺言内容の正確性は上がり、安心して相続することが可能となると考えられます。また、司法書士の中でも遺言書作成を事業の柱の一つとした事業所があり、司法書士監修の遺言の下書き作成アプリも存在します。

公証役場で作成する公正証書遺言の作成手伝いだけでなく、自筆での遺言作成にも丁寧に関わってもらえるようです。

行政書士に遺言書作成を相談する

行政書士は総務省の管轄となり、都道府県や市区町に提出する各種書類の作成や手続きを行います。

  • 建設業や飲食店開業の許認可書類
  • 相続・遺言
  • 交通事故の示談書

など取り扱うことが可能である書類は1万種類を超えるようです。

試験を受けるほか、国や地方の公務員などとして行政事務を通算17年以上行っていれば行政書士になることができます。行政書士は、目的をもって兼業などをしながら活躍している人が多く、例えば散骨の事業を主体的に行っている事業所も多くあります。行政書士のウエブサイトには手続き方法などが詳しく記載されていることも多いので、参考にするとよいでしょう。

例えば、葬儀・告別式に関する希望を残す場合には、遺言書の方式に注意が必要であり、封印されている自筆証書遺言・秘密証書遺言は家庭裁判所での検認手続きを済ませてから開封することになるため、遺言書に葬儀・告別式の希望を書いていても間に合わない等が書かれています。

葬送方法に希望がある場合は、時間の流れからいえば「公正証書遺言」が適切です。なので、行政書士からのワンストップサービスが成立するのです。

税理士に遺言書作成を相談する

税理士に遺言書作成を相談する
税理士は、納税者の代理人として納税の相談に乗り、税務訴訟の場合には補佐人になり救済の仕事をします。

遺言書を作成するとき、遺産の分配は法定相続分で設定するとは限りません。誰に何をどれだけ、と遺言書に書くときは相続人各人の最低保証額といった性格の「遺留分」が後日問題になることがあります。

財産を特定の人に多く承継させたいとき、そのせいで誰かの遺留分を侵害する遺言内容とならないようにしたいものですが、そうなってしまうことは往々にしてあるものです。分配理由と遺留分を行使しないようにお願いする文面を作成してもらう場合は、税理士にデータの蓄積があり、可能な限り正当な分配方式を示してもらうことができます。

例えば、相続人とならない長男の嫁ですが、介護で最もお世話になったためどうしてもお礼がしたい場合に他の兄弟から遺留分の権利行使を受けたり、後々まで嫌がらせされたりといったことにならないよう「付言事項」に書いてもらうといった例があります。

信託銀行に遺言書作成を相談する

法定相続分に納得できなければ、相続人間で「遺産分割協議」を行うことができますが、話がまとまらない恐れがあります。そこで遺言書を作成すれば、法定相続人ではない事実婚の相手や、ほかの親族などに財産分与ができます。

遺言書を作成した本人が亡くなり、遺言の効力が生じた後、記載されている遺言の内容をその通りに実行する人を「遺言執行者」といいます。この遺言執行者は、未成年者と破産者以外、誰でも就任することができ、遺産相続に利害関係のある相続人でもなれ、さらに複数人以上でも、個人でも法人でもよいことになっています。

信託銀行が遺言執行者になる場合には、事前の相談に基づき、公証役場にて公正証書遺言を作成します。このとき遺言書において信託銀行を遺言執行者として指定します。

遺言執行者が法的な知識や手続きに関心がない個人である場合には、心的な負担は大変なものですが、法人であれば、個人が財産の引き渡しや分配、名義変更などに忙殺されることなく、親族も安心できます。ただ、手数料や遺言書の年間保管料、遺言執行の報酬などの費用はかかることになります。

もう一つの方法として「遺言代理信託」があります。

遺言代用信託とは

遺言者と信託会社が契約を交わし、遺言者が亡くなった際には契約通りに各相続人へ財産を引き渡すものです。口座凍結が行われないことがメリットであり、すぐに必要となる葬儀費用などを信託財産から引き出すことができます。遺言代用信託の費用は、信託財産額に連動することが多いようです。

散骨業者に遺言書作成を相談する

散骨業者に生前予約にあわせて遺言書作成を依頼することもできます。

正式な申し込みとは別になることも多いようです。なので業者に相談してみなければ分かりませんが、専属の行政書士がいる業者もあり、遺言書に海洋散骨を希望するといった言葉を残すようすすめています。遺言の作成から遺言の執行まで依頼できる散骨業者もあります。

書いたからといって親族に対して法的な強制力はありませんが、記載しない場合は思いが伝わらず遺族の手に委ねることになります。

散骨業者で遺言書を依頼するメリット

法的拘束力の強い遺言書に、付言として散骨の記載があることで実行される可能性が高くなるということでしょう。また、散骨だけでなく漏れや抜けがなく財産分与などについても備えることができます。

ただ、散骨業者に遺言書をお願いしたからといって必ず散骨が叶えられるとは限りません。口頭で必ず親族に伝えておくといった生前のコミュニケーションが大切になります。

より確実に散骨してもらうために

より確実に散骨してもらうために
より確実に散骨してもらうためには、どうしたらよいでしょうか?

葬送に関して故人の遺志が尊重されるかどうかは、

  • 経済的問題
  • 心理的問題
  • それまでのコミュニケーション

が、判断材料となるようです。

経済的な問題

散骨の希望を叶えるために、親族がその海などに行くまでにかかる金額が大きければ無理の可能性もあります。遺族が供養にかかる費用を負担する場合は、なおのこと不可能と判断されるかもしれません。

心理的な問題

散骨に抵抗がある人も多いものです。本当の供養になるのだろうか?遺骨は手近なお墓に置いてお参りしたい、と遺骨の場所が遺族の心の支えになる場合も考えられます。落ち着くまでは、その遺骨自体をそばに置きたい方もいらっしゃるものです。

それまでのコミュニケーション

コミュニケーション不足により、散骨といっても「それはどこが希望なのか」判断に困る遺族もいらっしゃいます。どこの海がよいのか、一部散骨という意味にとってよいのか、一部はお墓に入れてほしいのかなど判断に迷う場合も多いものです。
これが妨げとなって、慣習通りにとなる場合もあります。散骨を実現するためには、好きな場所や思い出の海について親族に話しておくことが大切なこととなります。
散骨と直接は言いづらい雰囲気であっても、別の話題にして伝えておく工夫は必要になるでしょう。

散骨する場所や方法を具体的にイメージする

散骨する場所や方法を具体的にイメージする
散骨を行う場所や方法は、具体的にイメージすることが大切です。

遺族としても、ただその辺りに撒いておいてといわれても困るものです。遺族は「どこに」「どのような形で」散骨してほしいかを具体的に知りたいと思っています。

散骨の希望を家族や親戚に伝えておく

散骨の希望は、少しずつ何度かに分けて親族に伝えておきましょう。散骨の一連の作業には、遺族にとっては胸の痛いものがあります。

例えば、遺骨を拾う作業でも業者がぞんざいに扱うと泣きたくなるものです。そして、遺骨が粉末になるというのも心理的な負担は大きいものです。

また、地域の慣例や慣習に従わずに散骨することに対して親族も安心する気持ちにはなれないでしょう。前もって散骨の意義を本人からゆっくりと聞いておくことによって、これらは緩和されます。

遺言書とエンディングノート

遺言書とエンディングノート
葬送という事態に至る前に、本人が家族や親族とコミュニケーションをとる機会をもつことが難しい場合もあるでしょう。そういった場合には、遺言書と「エンディングノート」の両方を残して、遺志を伝えることができます。

本人の希望が何であったかを家族間で見解して相違があったときに、本人を想うあまりに家族間で諍いが生じます。

  • 終末期の治療について
  • 葬送について
  • 相続について

望みは何であったかを残された家族のためにも遺言しておくことが大切です。

遺言書で書き切れないニュアンスを伝えるためにも、エンディングノートは重要な役割を担います。遺言書を作成するまさにその現場に持って行き、込めた気持ちの言葉を拾っておき、後日早めにきちんと綴っておくとよいでしょう。

遺言書だけでは本人の意図が伝わらない場合も、エンディングノートがあれば遺族が納得する確率が高くなります。遺言書を更新する場合にも、エンディングノートは必ず持って行き、一致させてください。

散骨の希望を遺言で残す相手がいなくても大丈夫

散骨の希望を遺言で残す相手がいなくても大丈夫
行政書士には、家族がいないおひとり様向け終活サービスを展開している事業所があります。葬儀や納骨を代行するというようなサービスです。

  • 親族がいない
  • 縁がないので遺言書は書けない
  • だからといって、友人に依頼することも憚られる

といった場合、こういったサービスを利用することもできます。

終活において葬儀やお墓の準備、生前契約をする方は多いですが、実行してもらえるかどうかは分からないものです。葬儀から火葬、納骨までの間に親切な方が間に立って動いてくださるかもしれませんが、もしかしたら当日うまくいかないこともあるかもしれません。

ましてお一人の場合は、亡くなった後の部屋の片付け、電気・ガス・水道・TV・インターネットなどさまざまな契約の解除や清算も手間がかかるものです。終活においては、死後、総合的に対応をしてくださる人を探すことが実は、最も重要かもしれません。

  • 役所
  • 病院
  • 不動産管理会社
  • 金融機関
  • 勤務先

などと調整ができ、散骨など葬送の希望も叶えてもらえるサービスが近所にある場合は調べてみて相談してみてもよいでしょう。

まとめ

1.散骨してほしい希望を遺言書で伝える場合は、法的拘束力のない「付言事項」部分で思いを伝える
2.専門家に遺言書作成を相談すると、専門家の専門分野に応じたトラブル回避ができる
3.散骨の希望を親族に伝えておくことが大変重要
4.遺言書のほか、同時にエンディングノートも作成すればニュアンスが伝わりやすい
5.散骨の希望を遺言で残す相手がいなくても、お一人のためのサービスも登場している

弁護士、司法書士、行政書士、税理士、信託銀行に遺言書作成を相談する方法のほか、散骨業者に遺言書作成を相談するという方法もあります。

散骨の希望を叶えたい人は増えています。いろいろなサービス形態の方々に相談して、自分に合う情報を得てみましょう。

著者情報

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未来のお思託編集部
散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。