終活に関する本は、書店で一つのコーナーをなすほど多く出版されています。そして、それらを手にとるのは高齢者だけではありません。若い人でも、終活を意識している人が少なくないようです。
年齢を問わず多くの人から「終活はいつから始めたらよいのか?」「何をどのように進めたらよいのか?」など、情報が多いからこそ迷うという声が聞こえてきます。
終活を正しく理解するために、まずはその第一歩として、歴史や背景を知ることから始めましょう。
終活とは?その歴史と背景
終活の定義は「人生の終わりを迎えるにあたって、自分の希望をまとめて準備を整えることである」と一般的には考えられています。
終活の具体的な行動は以下の内容が挙げられます。
- 断捨離や身辺整理をすること
- 葬儀やお墓の準備
- 相続に関して遺言書を残すこと など
これらの個々の行動をまとめて「終活」と呼ばれるようになりました。
終活は約10年前、ある雑誌で特集されたのが始まりとされています。なお辞書では語源として、同じ音である「就活」=就職活動のもじりで、「終活」=終末活動の略ではないかと解説されています。
終活という言葉が生まれてから10年、その意義や内容は変わったのでしょうか?また、終活が生まれた背景を、その歴史をひも解きながらお伝えします。
「終活」という言葉のはじまり
「終活」という言葉は2009年、ある週刊誌の記事タイトルに使用されたのが初出とされています。いわばマスメディアが作り出した言葉です。
「就職活動=就活」の音に真似て、「人生の終わりのための活動」を「終活」と、造語したという説があります。
終活の記事自体は、葬儀やお墓など、供養の形が変化している現状に、どのように対応したらよいのかという提案が主な内容でした。そして最後は「死ぬための準備でなく、人生を楽しむために」という座談会で締めくくられていました。
当時、多様化した供養の形を取り上げた記事は別段珍しいことではなかったと思われます。それではなぜ、「終活」の記事は大きな話題を呼んだのでしょう。
それは、「造語のインパクト」であったり、「死の準備をすることは、残りの人生をよりよく生きるためである」と捉え直した内容であったことや、葬儀やお墓のことに対してポジティブに提示したことなどが、多くの人に受け入れられたのではないでしょうか。
なお、同雑誌は2019年6月から「元祖終活シリーズ」として、不定期に「終活」が取り上げられています。それらの記事は、財産管理からコロナ禍のお葬式まで、現代を映し出す内容になっています。
10年以上、「終活」について追い続けられているということは、多くの人が「終活」について、真剣に考え続けているからと思われます。
終活の広がり
「就活」「婚活」「朝活」のように、目的に向かって積極的に活動することに対して「活」を付けることが、ブームのように続いています。
ただ、前向きな活動とは異なり、「終活」は「死」を意識することが避けられないので、どうしてもネガティブになりがちです。
しかし、「終活は自分の人生を内面的に総括し、残りの人生を有意義に過ごすための活動」というポジティブな意義が加わったことで、空気が変わったと思います。
そのような「終活」の広がりを、出版界や自治体の取り組みなどを中心にご紹介しましょう。
「終活」という言葉は、2009年、雑誌の特集が組まれたことで話題となり、2012年には流行語大賞でトップ10入りを果たしました。
また「エンディングノート」というドキュメンタリー映画の公開(2013年)など、2010年前後は「終活」現象の草創期と言えるでしょう。
それまでは「老い支度」のような、老いへの備えをテーマにしたエッセイ的な内容ばかりで、「終活」をタイトルに掲げた本はありませんでしたが、今では終活の専門誌が発行されるまでになりました。
多くの自治体で、相続や遺言書、葬儀、自宅や家財の処分など、終活支援として相談できる窓口が設置されるようになりました。一度、住んでいる地域の行政窓口をチェックすることをおすすめします。「エンディングノート」や「終活ノート」など呼称は様々ですが、独自のガイドブックが作成され、無料配布もされています。先駆的なところでは、自治体がハブとなって住民の終活登録を行う試みがなされています。
また、別の自治体では身元が判明しているのにお骨を引き取ってもらえない事案が急増し、終活事業を始めるようになったそうです。自治体が終活への広がりに力を入れるのは、行政側の事情が影響しているのかもしれません。
国の取り組みとしては「人生会議」の推進事業があります。ホームページにおいて、終活で一番大事なのは、家族や友人、関係者との話し合いや情報共有であると、医療や介護関連を軸に啓発が図られています。
終活の背景
終活はここ10年の間、社会現象として続いています。その背景は、主に次のようなことが考えられるのではないでしょうか。
終活が話題になり始めた2009年頃は、戦後の第一次ベビーブーム期(1947~49年)に生まれた約680万人の人々が、ちょうど定年を迎える時期でした。その人々の「生きがい探し」が社会問題になったそうです。その延長上に「終活」があったのではないかと推論されています。
団塊世代をターゲットに関連需要を見込んで、企業が「終活」に関与し出したのもちょうどこの頃ではないでしょうか。
日本では1971~74年の第二次ベビーブーム以降、生まれる子どもの数が減少に転じました。1980年代初めにはやや回復したものの1980年代半ばから再び低下。1990年に前年の合計特殊出生率が過去最低の1.57に低下した「1.57ショック」により、厳しい少子化の現状が強く認識されました。その後の対策の遅れもあり、少子化は改善されず今に至ります。
少子化は、家系を継ぐ人の減少を意味します。お墓をどうするのか、家や財産はどうするか。自分の代での対応が迫られている人は、終活に無関心ではいられないでしょう。
子どもの数が減る一方で、高齢者の人口に占める割合は年々増加しています。高齢化にともない、介護を受ける確率、認知症になる確率も高まります。
延命治療などの判断が自分でできなくなる可能性を見据えて、意思表示しておくことの重要性が増しています。
昭和の高度成長期以降、核家族化が進み、そして今、一人暮らし世帯の増加が顕著になっています。高齢者の一人暮らしが増えただけでなく、若者の非婚化が大きく影響していると考えられます。いわゆる「おひとりさま」の中には、自分自身の終活の前に、年老いた親の終活にも取り組まなければならないというケースもあります。
昔は葬儀の多くが、周りの協力のもと地域社会(町内会など)で行われていました。今は家族葬が主流と言われていますが、葬儀の形もそれぞれの希望に合わせて多様化し、お墓や供養の選択も自由です。
また、宗教との関わりも希薄化しています。精神的な支えやお手本となるものがない中、葬儀やお墓などの判断・決断が個人に求められるようになりました。
終活は昔の人も行っていたのでしょうか?確認できるものとして「遺言書」があります。
江戸時代が対象の研究で、遺言書を材料に家意識を読み解いた論文があります。当時の遺言書は、「置文」「申置」「遺記」「処分目録」などと呼ばれていました。
その内容の特徴は、遺産の配分に関する部分と家存続を願う家訓のような部分が書かれていることです。多くは箇条書きで、中には「お墓の材質」や「先祖のお墓より大きく作るな」のように細かい指示を残す例があるようです。
研究対象が学者、大庄屋、商家などが多いのは、継承すべきものが多い層で、記録が残りやすかったという面もあるでしょう。一方で庶民はどうだったのかというと、こちらも遺言書の類は存在していて、市井の人々の声として検証された本も出版されています。
庶民の遺言書は死が迫っているときに書かれることが多く、内容は教訓のようなもので、家族への思いが込められていたとのことです。
遺言書を書く作業が人生を豊かにするという認識を、当時の人が持っていたかどうかは定かではありませんが、自分の死後の希望や指示だけでなく、残される者への思いを伝える手段であったのは確かなようです。
現在の終活
終活という言葉が生まれてから10年以上経ちますが、今、どれくらいの認知度があるのでしょう。
2019年実施された「終活に関する調査」(楽天インサイト)を参考に、終活の認知度と行う理由を確認しましょう。
まず、終活の認知度に関する質問に対して、2割弱の人が内容はよくわからないが「終活」という言葉は聞いたことがあると回答。言葉も内容も知っていると回答した人は約8割とのことでした。
また「終活をする意向が一番高い年代」は30代とのことで、若い人の終活への関心の高さが裏付けられています。
そして、終活をする意向がある人の4割が「終活を始めたい年齢は60代」と答えました。終活は定年を迎える頃から始めようと考える人が多いと言うことですね。
次に終活を行う理由ですが、「家族に迷惑をかけたくないから」がトップで7割半です。次点が「病気やケガ、介護生活で寝たきりになった場合に備えるため」となっています。
周りに迷惑をかけたくないと思う人は、年代問わず多いことがわかります。他の理由で「これからの自分の人生をより良くするため」という人も2割弱。
全体の順位は低いながらも、前年比でかなり増加していることは、とても興味深いことです。
現在の終活で、どのようなことを考えなくてはいけないのかを知るには、標準的なエンディングノートの項目を見るのも一つの方法でしょう。
自分にもしものことがあったときに役立つようにと、自分の記録や希望を書き留めておくのがエンディングノートです。これは、遺言書のような決まった規格はなく、書く順番も量も自由です。
エンディングノートは書店や文具店で購入する以外にも、最近では企業や自治体からの無料配布もあり、その種類の多さに選択に迷うほどです。
現在、自治体から発行されているエンディングノートの標準的な項目は次のようになっています。
- 自分自身のこと
- 医療・介護のこと
- 葬儀の形式のこと
- お墓のこと
- 財産・相続のこと
- 遺言書について
- 自由記入欄(家族への言葉など)
初期のエンディングノートは「やりたいことリスト」の印象が強かったのですが、今は必要な記録を残すことに重点が置かれるようになりました。
その中で特に充実してきたのが「介護・医療」の項目です。延命措置や臓器提供について、また託す人や機関の指定についても、自分が判断できなくなったときの意思を記録することの重要性が認識されるようになったということです。
そして今後課題になることの一つに「デジタルデータ」の利用・扱い方・伝え方があるでしょう。例えばパソコンのパスワートを伝えていなかった場合、家族はパソコンを開くことすらできず困ることになります。
これから終活を始める人は、デジタルデータに対応したエンディングノートを選ぶことをおすすめします!
まとめ
終活の背景や歴史について、理解いただけたでしょうか。人生を見つめ直し、充実した毎日を送るために終活を始めてみませんか。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |