今、「後を継ぐ人がいない…」などの理由から、改葬・墓じまいをする方が増えています。散骨を希望する人の中にも、既存のお墓について墓じまいを検討しているという方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで、気になるのが以下のような事柄ではないでしょうか。
- 墓じまいはどのように行われるのか?
- どれくらいの費用がかかるのか?
- 何に注意すればよいのか?
そして、そもそも墓じまいは誰が行わなければならないのでしょうか?費用負担を含め、誰にその義務があるのかなど、基本的なことを整理してみましょう。
墓じまいを行うのは義務?
「墓じまい」と「改葬」、この2つの言葉は同義で使われることもありますが、その違いについてはご存知でしょうか?
改葬・墓じまいが行われる理由は様々ですが、お墓の継承が望めないからという人が多いのではないでしょうか?
いずれにしてもお墓をなくすわけですから、その実行には大きな決断がいることは想像に難くありません。それほど重大な墓じまいですが、お墓の管理は義務なのか、墓じまいをするとなると誰が行うものなのか気になるところです。
それを考える上で、まずお墓の権利について整理したいと思います。
使用権は、「永代使用権」「墓地使用権」などとも呼ばれ、実は法律の条文に出てくる用語ではありません。もし使用権に関する訴えがあったときは判例法理で判断され、慣習によるところの多い特殊な権利といえるでしょう。
使用権に対する具体的な内容については、お墓を建てたときの契約書や墓地の管理規定などで確認することができます。
管理規定の中で墓じまいに関連するのが、「使用権の解除」と「墓地の返還」についての取り決めになります。
多くの場合、管理料の長期滞納など使用条件が守られない場合には使用権が消滅し、使用者は墓地を返還しなければならないとされています。ところが、そのような取り決めがあるにもかかわらず、使用権の解除とともに所有者が強制的にお墓を撤去した場合、責任を問われる可能性もあって慎重な対応がなされているとのことです。
お墓の使用者は使用条件を守る義務があり、できなければ墓じまいをして墓地を返還する契約上の義務があるといえますが、法的拘束力がないというのが現状のようです。
誰が墓じまいを行うかということについては、必然的に「墓地の使用権を持つ人」です。その多くは、現在「お墓の管理を行っている人」といえそうです。
墓じまいは権利か義務か
義務には、「法的な義務」と「道義的な義務」があるといわれています。
この2つの意味をふまえて、墓じまいの権利と義務について確認してみましょう。
人が亡くなると相続が発生しますが、お墓は相続の対象にはなっていません。
民法897条「祭祀に関する権利の承継」では、承継されるものとして「系譜、祭具及び墳墓の所有権」と明記されています。
ですが、祭祀継承者は祭祀儀礼を必ず行わなければならないのかというとそのような法的義務は、実はないのです。お墓についても同様で、契約上の責任はあるにしても祭祀継承者はお墓をどのようにしてもよいことになっています。
現在はお墓を継ぐことに対して負担に思う傾向があり、権利というよりも義務のように感じる方も多いかと思いますが、実際は祭祀継承者にはお墓をいかようにもできる権利があるということです。
特段な事情がない限り、「お墓を放置するのは人としてどうなのか?」道義的観点から判断されることになるのでしょう。
墓じまいはその必要性が生じたとき、お墓を引き継いた人が必ず行わなければならない法的義務はありませんが、道義的義務はあるといえるでしょう。
祭祀継承者は具体的には誰がなる場合が多いのでしょうか?
家に関係するものは長男が継ぐというイメージが今でも根強いと思われますが、民法では次のように規定されています。
- ①慣習によって祭祀を主宰する人が祭祀財産の所有権を受け継ぐ。
- ②亡くなった人(元祭祀主催者)の指定があった場合は指定された人が受け継ぐ。
- ③慣習が明らかでない場合は家庭裁判所が定める。
要するに「①慣習」「②元祭祀主宰者の指定」「③家庭裁判所が定める」ということです。必ずしも長男でなくてもよく、相続人から選ぶ必要もなく、親族以外からも選ばれることがあるということですね。
ちなみに、この祭祀継承者を選定するときのトラブルは、「祭祀財産に高額なものがある場合」や「お骨を誰が引き取るか」が問題となる場合に起きることが多いようです。
他には、複数の同じお墓でも、姓の違うお墓が2つある場合が最近増えてきました。それは、一人っ子同士で両家のお墓を一墓所に建てているなどの事情が考えられます。
また、結婚しても結婚相手の家のお墓に入らずに、実家の了解を得て自分のお墓を建てるケースもあるでしょう。
そもそも、お墓に誰が入るかということを決めた法律はないのですが、「一墓所一家名制」の原則を取り入れたお墓の管理規定が以前は多くありました。
今は管理者と使用者の許可があれば、誰でもお墓に入れるようになってきたということです。そして、維持が難しくなったらお墓を閉じようという傾向が出てきた今、そのような対応がなされたお墓ほど、確認しなくてはならない範囲が広いという現実があります。これは、一墓所に2つの姓があるお墓に限ったことではありません。
「埋葬されている故人」と「使用者」または、お墓同士の関係性が複雑になればなるほど、墓じまいの賛同を得る作業が難航することが予想されます。
もちろん「祭祀継承者」として、意見を聞かずにお墓を自由にできるという権利はありますが、それでも墓じまいを無断で決行したら「トラブル」になる可能性は高いといわざるを得ません。お墓の使用者であり祭祀継承者として、誠実に祭祀を務めてきたという事実があったとしても勝手にはできないですし、話し合いをする道義的な義務がやはりあるのではないでしょうか。
残念ながらどんなお墓にも永久に継承される保証はなく、無縁墓は誰もが無関係という訳でもない問題です。今まさに墓じまいが検討されているお墓は、継承の危機が迫っていることが多いので、墓じまいをしておかないと近い将来、無縁墓になる可能性は高いのではないでしょうか?
お墓は社会を映す鏡、社会の変化に遅れて影響が出てくるといわれています。いわれて久しい「少子化問題」などの影響が、無縁墓問題という形で顕在化してきているのでしょう。
現在、無縁墓の対策として、「合同墓」を設置する自治体が増えているようです。その改葬費用はすべて管理者である自治体の負担になるので、墓地経営に少なからず影響を与えているとのこと。
無縁墓問題は公営墓地だけでなく、民間経営の霊園や納骨堂でも見られます。継ぐことが難しいということで納骨堂を選択する方も多いと思いますが、経営する宗教法人が破産するという、思ってもみないことが起きることがあります。
こういったケースでは、まず一定期間の無縁公告が行われます。期間を過ぎても縁故者が現れなかったお骨は、無縁改葬手続きがとられるのです。
納骨した当初の希望がこのような形になってしまうのはとても残念なことですね。
1999年に法律が改正されて、無縁墓に対しては立て札と官報掲載よる無縁公告を1年以上行い、誰からも申し出がなければ改葬手続きの申請ができるようになりました。(墓埋法施行規則第3条)
これにより無縁墓対策を積極的に行う自治体も現れるようになりましたが、実際のところ対応は自治体によって異なっています。
改葬後の墓地利用があまり望めないので、コスト面から無縁墓を放置する選択をしている自治体もあるとのことです。
合同無縁墓に最終的には改葬されることを予想して、自分では墓じまいをしなくてもよいと安易に考えないほうがよさそうです。このような世間の状況の中、墓じまい・改葬を検討することは、無縁墓を避ける取り組みを自己の責任においてしっかりと行っているといえるのではないでしょうか。
墓じまい 費用負担は誰の義務?
墓じまいの費用は誰が負担するのでしょうか?費用のかかるお墓になればなるほど大変悩ましい問題です。
ここでもう一度、祭祀継承者の権利と義務について整理してみましょう。
それでも墓じまいは作業の性質上、かかる費用が少なくないのが普通です。費用が大きくなればなるほど一人で負担するのは大変ですよね。
家族を代表して墓守を続けてきて、さらに墓じまいの費用をたった一人で負担するとなると納得がいかない場合もあるでしょう。そこで、兄弟や他の親族にも費用の分担については相談してみましょう!
お墓への関わり方は、様々で一概にはいえませんが、費用負担に道徳的義務のある親族が他にもいらっしゃるのではないでしょうか?墓じまいを納得してもらうのは大前提ですが、そういった方々から費用負担の協力が得られればそれに越したことはないですよね。
改葬はどのような流れで行われていくのかをご存知ですか?
期間としては事前準備から何年もかけて行う方もいれば、数カ月で行う方など様々ですが、一般的には次のような順番で行われています。
①家族、親族など関係者間で話し合う。
②お墓の現状を確認。
③既存の墓地管理者に相談。
④受入先に相談。
⑤改葬先のお寺や霊園から受入証明書等を取得。
⑥改葬許可を申請するのに必要な埋葬証明書を、お寺や霊園などの既存の墓地管理者から取得。
⑦受入証明書と改葬許可申請書を持って、受入先のある行政窓口で申請を行う。
⑧改葬許可証の交付を受ける。
⑨お骨の取り出しとお墓の撤去: ⑴閉眼供養、⑵お骨の取り出し、⑶お墓の解体・撤去、⑷原状回復作業(さら地にする)を行う。
⑩移動先の墓地管理者に、改葬許可証を提出し納骨する。
納骨せずに散骨する場合も、⑨までの墓じまいの過程はだいたい同じになります。
こうして流れを見てみると、墓じまい・改葬は必要書類の種類も多く、各方面に足を運ばなければならず、撤去するときに重機を使うなど大変な作業であることがわかりますね。
心配な方はトータルで業者にお願いする選択肢もありますので、ご検討ください。
一般的な改葬の流れと手続きについて見てきましたが、散骨を前提とした墓じまいには、別の注意点がありますのでお伝えします。
まず前提として、次の3点にご留意ください。
- 散骨は法律上の規定が明確でないため、自治体それぞれの見解があります。それが反映された独自の手続きがありますので、直接の問い合わせが必要となる場合があります。
- 改葬許可証の発行を申請する際には受入証明書が必要となりますが、散骨の場合は受入先が存在しないので、当然ですが受入証明書の取得ができません。
- 散骨業者によって求められる書類は様々ですので、説明をよく聞きましょう。
以上をふまえて、散骨を前提とした墓じまいに必要な書類について説明します。
「受入証明書」がないと「改葬許可証」を発行してくれない自治体は多いです。
一方で契約時に「改葬許可証」の提出を求める散骨業者がいます。お骨が誰であるかを書面で明確にしておきたいという理由があるようですが、発行不可の自治体にお墓がある場合には、業者にその旨を伝えて相談してみましょう。改葬許可証を不要とする業者の場合は、受入証明書も必要ありません。
また、一部を手元供養で残すという場合は、将来改葬することも想定して改葬許可証を取得しておいたほうがよいでしょう。この場合は自治体によっては、受入証明書がなくても改葬許可証を発行してくれる場合があります。
既存のお墓の管理者から取得するもので、散骨の場合でも必要なものになります。管理者にお骨の取り出しを了承してもらい、埋蔵証明書を取得するわけですが難航する場合があるようです。檀家制度の関係から主に寺院墓地のケースに見られます。
墓じまいに必要な費用の中で、最も多くを占めるのがお墓の撤去作業の費用です。それぞれの作業内容と、気になる費用の相場をお伝えしたいと思います。
宗派によって意味合いや言い方が違いますが、他の宗教でも何かしらの儀式を行うケースがあるようです。これらの儀式をお願いするときの相場ですが、1~5万円といわれています。
お墓の下にはカロート(納骨室)があり、墓石を動かしてそのカロートからお骨を取り出します。自分で墓石を動かしてカロートの蓋をあけるのは危険もありますので、石材店にお任せするのが無難でしょう。
お骨の取り出しと墓石の撤去が終了したら、最後にさら地にしてお寺などに返還します。これら一連の作業にかかる費用の相場は、1m²=10万円前後といわれています。
1坪(約2畳)の広さのあるお墓で、20~30万円といったところでしょうか。実際の費用は、墓地の広さや墓石の大きさや形、石の量、お墓の立地条件などで変わりますので、事前に詳細な見積りをとることをおすすめします。
また、手続きの代行からお骨の受け渡しまで、トータルで請け負ってくれる業者もいますので、慣れないことばかりに心配な方はお願いするのもよいでしょう!
以上のように墓じまいは費用も手間もかかり大変だと思われるかもしれませんが、やはり長年供養してきた故人のお墓です。丁寧な作業や儀式を行うことで、故人への敬意を表すことができますし、墓じまいをする人は安寧を得ることができるのではないでしょうか。
支払い義務はある?墓じまいのトラブル
墓じまいは大掛かりな上に経験がほとんどないことですから、判断するのが難しいと感じることも多いでしょう。そのような中で、できればトラブルは避けたいものですね。
起こる可能性のあるトラブルは、次のようなものがありますので参考にしてください。
たとえ家族、親族であってもお墓への思い入れが違うので、強く反対されることはあり得ます。お墓を閉じるということは人によっては受け入れ難いことでしょう。お骨を取り出すなど縁起が悪いと考える人もいるそうです。
繰り返しになりますが、とにかく時間をかけて話し合うことが大事で、費用の分担を相談する予定ならなおさらのこと、早めに働きかけてみましょう。
契約内容をぜひ確認してみましょう。
公営墓地以外では提携する石材店があるのが普通なので、複数の業者を比較することは難しいようです。一墓所二家名の墓所だったり、立地が複雑だったりで、費用が高くなることももちろんあります。それでも相場以上の請求だと感じたときには、納得のいく説明を求めましょう。
また詳しい見積書をもらうことで、トラブルはある程度防ぐことができます。
改葬元とのトラブル事例には、以下のようなことがあるそうです。
- お骨の取り出しになかなか応じてくれない。
- 埋蔵証明書を出してくれない。
- 高額な離壇料を請求された。 など
檀家制度がなくなった戦後になっても、お寺と檀家関係を結んできた家は多かったと思います。現代では檀家数減少によるお寺の経営難があり、墓じまいトラブルの要因のひとつであるといわれています。
国民生活センターからも注意喚起が出ていますので、納得のいかない離壇料の請求があったときはまず契約書を確認してみましょう。契約書がなければ離壇料の根拠を示すのは、法律上難しいというのが一般的な見解です。
それなら離壇料は支払う義務は全くないのでは?といわれるとどうなのでしょう…?
長い間お世話になってきたお寺を離れるのです。離壇料を、感謝の気持ちのお布施であると捉えるとよいのではないでしょうか。閉眼供養を依頼するのであれば、そのお布施に今までの感謝の気持ちを含めるのもひとつの方法です。
まずは、丁寧に墓じまいすることをお寺に伝え、ご自身の代ではお付き合いが少し希薄になってきていたとしても、「墓じまいをしたい」といきなり切り出すことだけは避けたいものです。
墓じまいをして、散骨をする場合には、取り出したお骨に対して適切な処置が必要となります。
骨壺に複数のお骨がある場合や、骨壺でなく布袋に入っている場合など状態がさまざまです。また、土葬で埋葬されたお墓の場合は、多くは火葬が必要になってきます。特に状態が予めわからない場合には、取り出しについても専門知識が必要でしょう。
取り出されたお骨は、業者により慎重に運ばれると、丁寧に洗浄作業が行われます。
長年土の中にあったお骨は、雨水などの影響をたくさん受けています。カビや病原菌などが付着している場合もあり、もろくなったお骨が流れ出てしまわないように適切な環境において洗浄は行われています。釘や金属があれば取り除かれ、最後は、しっかりと乾燥処理が施され、ここまで行われてやっと粉骨ができるようになるのです。
このように、お骨の処置には様々な対応が必要になりますので、少なくともお骨の取り出しから粉骨までは専門業者にお願いしたほうがよいでしょう。大切な故人のお骨ですから、こちらが心配することもなく最後まで丁重に扱われてほしいものですね。
墓じまいから散骨までをトータルに扱う、信頼おける散骨業者にお願いできれば安心できそうです。
まとめ
墓じまいをするという選択は大変重たいことで、実際に成し遂げるのには相当の労力と気力が必要です。それだけに誰にその義務があるのかを考えることは、墓じまいに向き合う覚悟にもつながるのではないでしょうか?
無縁化するお墓が増えている今、それを避けるべく墓じまいを検討している方に、少しでも参考になれば幸いです。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |