墓じまいで新しい供養先に手元供養を選ぶと書類は基本的に不要
墓じまいを検討するなら、お墓から取り出した遺骨の新しい供養先を同時に考えなければなりません。その新しい供養方法のひとつに「手元供養」があります。
自分の手元に遺骨を保管しておくことは、法律的に問題ありません。そのため、手元供養に必要な手続きや書類は、基本的にないのです。
この記事では、墓じまい後の手元供養について、種類や方法などの基礎知識をはじめ、関連する行政手続きや書類についても紹介していきます。
そもそも手元供養とは?
手元供養とは、デジタル大辞泉によると「故人の遺骨を身近に置いて常に供養すること。」とあります。お墓に出向いて手を合わせるのではなく、手元に遺骨を置いておくことで「常に供養」ができるのです。
この2つのタイプについて詳しく内容をご説明します。
自宅に安置するタイプは、自宅に遺骨を保管しておき、いつでも手を合わせることができる状態にすることです。
お墓から出した骨壺ごと自宅に安置することはできませんので、洗浄などのメンテナンスが必要です。このメンテナンス方法は、遺骨の状態によって異なりますので後ほどご説明します。
遺骨を保管できる状態にしたら、自宅内の好きな場所に自由に安置しましょう。
従来の供物台や仏壇に安置することも可能ですが、下記のような例もあります。
- 現代の生活スタイルに沿ったシンプルなデザインの祭壇に安置する 金額は約5万円ほど
- 小さくかわいらしい、一目見ただけでは分からない骨壺に安置する 金額は2万5千円~
身に着けて持ち歩くタイプは、故人や先祖にいつも一緒にいて見守っていて欲しいという思いを具現化したグッズのことです。もちろん、自分で用意した小さな容器に遺骨の欠片を入れて、どこへでも持って行くこともできます。
ここでは市販されているグッズで主流なものを紹介します。
ペンダントやブレスレットのチャームに、遺骨を収納する専用のしくみが備わっているタイプです。
遺骨が入っているとは思えないスタイリッシュな形や、普段からさり気なく身に着けていられるデザインまで、種類は豊富です。
依頼する業者や、チャームの素材によって値段は大きく変わります。
遺骨から抽出した炭素を元に黒鉛を精製し、ダイヤモンドを作成することができます。もちろん自力では難しいので、専門業者に発注しましょう。ダイヤモンド以外にもサファイヤや真珠などがあるようです。
遺骨から作ることができる宝石をアクセサリーにすれば、肌身離さず一緒にいられる安心感と特別感を得られるでしょう。作成する宝石の種類やアクセサリーの加工代金など、金額の幅は大きいです。
手元供養のメリットは2つあります。
墓じまいのきっかけがお墓へのアクセスに関する悩みだったら、手元供養に切り替えると解決できます。いつでも好きなときに好きなだけ、手を合わせられるようになるのです。
永代供養墓も従来のお墓も、継続的に管理費用がかかります。対して、手元供養は一度行うとそれ以上の代金がかかることはありません。
手元供養のデメリットも2つあります。
宗教的な感情や価値観はさまざまです。遺骨は先祖代々お墓に納めるべきで、加工は言語道断だという意見もあるでしょう。勝手に進めるのは控えましょう。
お墓に納骨していると、紛失のおそれはほぼありません。対して、手元供養では、身に着けていてなくしたり、火事や天災に遭ったり、紛失の可能性が高まります。
墓じまいで取りだした遺骨のメンテナンスは大切
お墓で眠っていた遺骨と骨壺は、そのままの状態で保管することは難しく、中には経年劣化した骨壺や、土に還りかけの遺骨があるかもしれません。遺骨にはバクテリアなどの人体に対して有害な物質が付着している恐れもあります。
気持ちよく保管し、次のステップへ進むためにも、使用していた骨壺から遺骨を出し、洗浄と乾燥を行いましょう。
洗浄乾燥は自分でもできますが、遺骨を前にしたら戸惑ってしまうかもしれませんね。その場合は専門業者に、遺骨の洗浄と乾燥をお願いしましょう。
また、古い歴史あるお墓の場合、土葬された遺骨があるかもしれません。土に還っていない場合、墓じまいでは一緒に取り出す必要があります。そして、土葬骨は再度火葬をしなければなりません。
容積を小さくできる粉骨のすすめ
もし、墓じまいしようとしたら「お墓の中が骨壺でいっぱい!」だったらどうしましょう?
遺骨の量が多い場合、遺骨そのものを小さくしてしまう「粉骨」をおすすめします。
粉骨することで容積を減らすことができ、手元供養もしやすくなります。また、他の供養方法にも適しており、散骨を行う場合の暗黙のルール、マナーとなっています。納骨堂や霊園によっては、遺骨を納めるスペースが限られ、粉骨を勧められることがあります。
粉骨をおすすめしましたが、遺骨を粉々にするという行為から「違法なのでは?」と心配になる方もいるでしょう。
遺骨の取り扱いに関する法律には、墓地、埋葬等に関する法律「墓埋法」と「刑法」があります。
第1条によると「墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的」とあり、供養のために遺骨の形を変えることは条文に反していません。
190条では「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄した(中略)者は、三年以下の懲役に処する」と定めています。
散骨時にパウダー状にした遺骨をまく理由は、自然に還しやすい点に加え、遺骨をそのまままくと遺棄していると思われてしまうのを防ぐためでもあるのです。
粉骨を考えている場合は、念のため遺骨に関わる書類を保管しておきましょう。
粉骨のメリットは2つあります。
特に墓じまいの場合、手元に残る遺骨はかなりの量になるかもしれません。容積を小さくして、供養方法の選択肢を広げましょう。
遺骨を分けることを、分骨と呼びます。粉状にしておくと、量を問わず分骨しやすいです。手元供養の種類はさまざまなので、家族で分ければ、それぞれ好きな方法で供養できます。
粉骨のデメリットも2つあります。
遺骨を砕くという行為から、「故人に申し訳ない」、「故人が成仏できないのでは?」と考える人もいるかもしれません。精神的に粉骨に踏み切れない場合は、無理をせず、粉骨しなくてもできる供養方法を検討しましょう。
遺骨をパウダー状まで小さくすると、二度と元に戻すことができません。粉骨をする前にはもう一度、親族に確認しましょう。
遺骨を砕く作業は、自分でもできます。特別な道具は必要なく、家庭にあるハンマーなどでも構いません。
7割ほどは素手でも破砕できますが、火葬された遺骨(焼骨)はセラミック状になっているので、大きな部分の破砕は難しいです。自力で行うと、心身ともに疲弊する上に、白くてサラサラのパウダー状にまでは加工できないでしょう。
粉骨は専門業者に依頼することをおすすめします。
粉骨の手順は「洗浄」「乾燥」「破砕」の順番です。手順の内容について詳しくご説明していきます。
お墓から取り出した遺骨は、土や泥、湿気によるカビなどの汚れがあります。汚れが残っていると、白いパウダーにはならないため、しっかりとした洗浄が必要です。
洗浄した後は、湿気を完全に取り除きます。湿気があると、パウダー状にならず、くっついてボロボロとした塊ができてしまうからです。
遺骨以外の異物を取り除く作業もあります。火葬後そのまま骨壺に納めた遺骨には、体内にあった金属や副葬品も混ざっていることがあるのです。
乾燥できたら、ようやく破砕作業です。業者は主に機械で行いますが、手作業に近い感覚の臼状のマシンを用いるなど、さまざまな種類があります。
墓じまいで手元供養をしたら書類を保管しておこう
墓じまい後の遺骨の居場所に手元供養を選択したら、関連書類を取得し、保管しておきましょう。
手元供養をした後に別の供養の形を取りたくなったら?
1.手元供養していた遺骨を全て納骨したい
手元供養している遺骨全てを埋葬あるいは納骨する場合は、「改葬」となります。また、墓埋法に明記されている「改葬許可証」がなければ、改葬先に受け入れてもらえず、改葬はできないので注意が必要です。
つまり、墓じまい後の遺骨の居場所として、新しくお墓を新調したり、納骨堂や永代供養墓の契約をしたり、樹木葬をすることを総称して「改葬」というのです。
散骨は自然にまいて還すため、遺骨を埋める行為ではないので改葬とは異なります。穴を掘ったところに散骨し、土をかぶせるなど一部でも埋めると改葬となります。
手元供養も、手元で遺骨を保管することで供養を行っているため、改葬ではありません。
墓じまい後に改葬をする場合は「改葬許可証」が必要
墓じまい後、お墓から取り出した遺骨を全て改葬するには、「改葬許可証」を改葬先に提出する必要があります。
第8条によると「市町村長が、第五条の規定により、埋葬、改葬又は火葬の許可を与えるときは、埋葬許可証、改葬許可証又は火葬許可証を交付しなければならない。」と定めています。
つまり、改葬したい場合は、市区町村役場で申請して許可を得て、改葬許可証を交付してもらうという一連の行政手続きが発生するのです。
また、後述しますが、手元供養している遺骨の「一部」を埋葬や納骨したい場合は、「分骨」となるので、手続きが異なります。
改葬許可証は、市区町村の役所で申請ができます。また、改葬先ではなく、今までのお墓の所在地の役所に申請します。
申請のために揃える書類があるので、確認しながら手続きを進めましょう。
改葬許可証が必要となったら、手続きを一から始めるのは手間がかかります。おすすめなのは、改葬を考えていなくても、取得できる書類は墓じまいと同時に用意することです。
墓じまいをしながら行政手続きや書類まで気を配ることは、とても労力がかかります。しかしながら、改めて申請書類を揃えるには、お墓の管理者や役所に何度も足を運ぶことになるので、できれば墓じまいと同時に進めておきましょう。
改葬許可証を交付してもらうための流れは、以下の通りです。
- 「受け入れ証明」になる書類を、改葬先に交付してもらう。
一度手元で供養する場合、改葬先は自宅になります。改葬先が決まり次第、用意できる書類です。 - 「改葬許可申請書」を今あるお墓の所在地の自治体(役所)から受け取る。
郵送で受け取ったり、ウェブページ上で書式をダウンロードしたりすれば、役所まで行かなくても済みます。申請書には、今あるお墓の管理者に署名捺印してもらう箇所があるので、墓じまい時に依頼すると良いでしょう。 - 「埋葬の証明」になる書類を、今あるお墓の管理者に依頼する。
施設によっては発行料が設定されていることがあります。手元供養を行う場合も、念のため受け取っておきましょう。 - 「改葬許可申請書」を「受け入れ証明」になる書類と「埋葬の証明」になる書類を併せて役所に提出する。
- 「改葬許可証」を役所で受け取る。
2.手元供養をやめて散骨したい
散骨は、改葬ではありません。明文化された法律がないため、行政手続きや書類は不要で、まく量も自由です。
手元供養していた遺骨を散骨するのも自由ですが、マナーを守って行いましょう。
散骨は宗教や風習に縛られない、比較的自由な葬送で、自然葬のひとつです。現代になって、発生しがちなお墓の悩みとナチュラル志向によって、注目を集めている葬送方法と言えます。
散骨は実施する場所で分類でき、条件によって費用が大きく変わります。
沖合の散骨場所まで船で向かう、主流の方法で、乗船する船や人数によって値段が異なります。自分の家族だけでチャーターすれば高額になりますが、船上で自由に過ごせることがメリットです。
散骨を目的としたクルーズ船を利用すれば、費用は抑えられます。また、乗船が難しい場合は、業者の代行散骨を利用しましょう。
安価で済みますが、信用できる業者を見つけることが大切です。
散骨では環境や周囲への配慮が必要なため、陸地で実施できるのは寺院や施設が所有する散骨用の土地に限られます。自分の所有地でもできますが、上記の理由からおすすめできません。
宇宙を目指して遺骨を打ち上げる散骨は、ロマンにあふれています。成層圏で破裂する風船を利用したり、ロケットで月を目指したり、方法はさまざまです。
セスナ機やヘリコプターに乗り込み、海洋の上空で散骨することができます。思い出の地を眼下に眺めながらお別れができる、イベント性の高い散骨です。
散骨をすると決めたら、「全ての遺骨をまかなければならない」といった決まりはありません!
故人が散骨を希望していて、残された親族は散骨に反対している場合、思い出の海に少し散骨し、残りはお墓に納めるケースもあるでしょう。逆に、少しだけ手元に残して、大半を散骨することもできます。
墓じまいで大量の遺骨が出てきたら、粉骨後、先祖に感謝して自分たちの手で散骨を行い、自宅に安置できる量だけ残しておくのがおすすめです。
3.手元供養している遺骨の一部を「改葬」したい
手元供養している遺骨の一部を、改めて埋葬したり納骨したりすることは、改葬ではなく「分骨」として扱います。
先ほど、粉骨のメリットとして挙げたように、手元供養のために家族間で遺骨を分け合うことには、手続きは不要ですが、分骨して埋葬や納骨を行う場合は、「分骨証明書」が必要です。
実は、分骨した遺骨を受け付けていない施設もあります。例えば、都立霊園には、分骨した遺骨を納めることができません。希望する施設に必ず問い合わせましょう。
また、「霊が迷子になる」「五体満足に転生できない」など、分骨についてマイナスな印象を持っている人もいます。分骨も、親族に了承を得て進めましょう。
墓じまい後に手元供養を選んだら「分骨証明書」をもらっておこう
手元供養は、何らかの事情で遺骨の安置を継続できなくなってしまうことがあり得ます。万が一のために、遺骨の身元を証明する書類を用意しておきましょう。
施行規則第5条では「墓地の管理者に対し、分骨の元になる遺骨についての証明書類の発行」を定めています。また、分骨した遺骨を納骨する際、施設の管理者に証明書類を提出するよう記載があります。
つまり、「分骨証明書」は遺骨の身分証明になりうるのです。決められた様式は存在しないので、行政手続きは必要なく、分骨元と納骨先で取り交わす書類になります。
墓じまいで手元供養をする際は、今のお墓の管理者に、分骨証明書の発行を依頼しましょう。
まとめ
墓じまい後の遺骨の新しい居場所に手元供養を選択したら、今は会えない家族や先祖を身近に感じることができるでしょう。しかしながら、供養できる環境が変わってしまうこともあり得ます。
取得できる書類は一通り揃え、家族と保管場所を共有しておきましょう。万が一のための備えを十分に行い、気持ちよく手を合わせられるようにできると良いですね。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |