歳を重ねると年々、葬儀に出向くことが多くなり、お通夜・葬式のしきたりや戒名などに触れる機会が増えるものです。一方、新聞の折り込みチラシなどには、最近のトレンドである「花壇墓所や緑を周囲に配置した墓所」の情報も掲載されており「自然」が意識された葬送は需要が高いことがうかがえます。

遺骨を自然の中へ還す「自然葬」の中で、人気のある「散骨」について「戒名」は必要か不要か、一般的なところが気になります。そこで戒名とは何なのか、なぜ付けるのか、散骨する場合も必要なのかについて紹介します。

戒名の基礎知識

戒名の基礎知識

戒名(かいみょう)とは

厳しい戒律に従い、仏教を学びながら厳しい修行を終えて、仏教に入門し学んだ証として授かる名前のことをいいます。本来は生前に与えられるものでしたが、亡くなっても生者として扱い、仏様の弟子として送るという没後作僧(もつごさそう)――「没した後に僧と作す」の教えから、現在は死後に戒名が与えられるよう変化したといわれています。

戒名は、故人への思いやりのあらわれといえるのではないでしょうか。

戒名のランクについて

仏教は本来、平等を説く宗教ですが、戒名にはランクがあります。昔の身分制度が厳格だったため、その習俗から戒名にもランクができたものと思われます。

一般的に最高位の戒名は「院殿号」「院号」で、寺を建立、あるいは社会的に貢献した信仰の篤い人に付けられるものです。次が「道号」といい、悟りを得た人の称号です。「院殿号」「院号」「道号」は授からなければ付きません。

その次が「法号」となり、これが本来の戒名にあたるもので、その下に「位号」が付き、一般的に戒名といわれる名前が完成します。「位号」は、院殿号には大居士、院号には居士が付くという約束事もあり、その他、大姉、信士・信女などがあります。

戒名をつける際の注意点

ランクの高い戒名を付けたいと思っても、決定権は菩提寺の僧侶にあり、いくら高額の戒名料を支払っても付けてもらえるものではないでしょう。

難しい文字や読みづらい文字など、付けられない文字もありますので、戒名に入れてほしい文字が必ず付くということでもありません。

戒名を付けず俗名のまま葬儀をすることもできますが、菩提寺によっては戒名を付けないと納骨できない場合もありますので、菩提寺に確認が必要です。

浄土真宗について

浄土真宗について
浄土真宗とは大乗仏教の一つであり、浄土宗を親鸞聖人が独自に発展させた宗派のことです。お付き合いのある寺院がなかったり、あっても遠方であったり、公園墓地に墓を求めていたりで葬儀を頼める先がない場合は、葬儀社に寺を紹介してもらうこともできます。

仏教であっても浄土真宗という宗教は、それほど縛りのない宗教であり、位牌も不要であることが多いようです。戒律がなく、作法も簡素で、その自由さから庶民に広がった宗教といわれ、位牌に霊魂が宿るという考え方自体がなく、過去帳(故人の記録:法名、俗名、死亡年月日、年齢を記載)を位牌の代わりに仏壇に置く場合もあります。

教え自体は浄土宗に非常に近いですが、昔はその自由さを締まりのなさとして揶揄され批判されたこともあったようです。

浄土真宗の戒名(法名)のつけ方

浄土真宗では戒名といういい方をせず、仏によって授かるという意味で法名と呼びます。浄土では皆等しいという考えと、仏の力によってのみ救われるという考えから、「位号」は使わず、法名に必ず「釋」という言葉を使うのです。

法名は浄土真宗では本来、死後に考えるものではなく、浄土真宗の門徒になり帰敬式を行うといただける名前であるため、生きているうちに寺に自分の希望を伝え、付けていただきます。亡くなってから付ける場合は、故人の人となりや共に過ごしたエピソードなどを住職に伝え、付けていただきましょう。

家族にとっては住職と思い出を共有するよいひと時となりますので、法名を付けるのは亡くなってからでも遅くはありません。

浄土真宗の戒名(法名)のまとめ
法名を付ける料金
  • 成人で約1万円
  • 未成年で約千円

と安価です。

法名の内願希望(法名に特定の名前を希望する)を出すと別に1万円程度が別途かかりますが、他の宗派と相場を比較すると圧倒的に安価といえます。浄土真宗は仏教の中でも縛りが少なく自由であり、法名にランクはなく、亡くなったら皆平等という強いポリシーや思いがみられます。

位牌は必要ないといいながら希望すれば位牌を作り拝むこともできるようで、仏教の中では少し個性的な、おおらかな宗派といえるかもしれません。

日蓮宗について

日蓮宗について
日蓮宗は日蓮上人によって鎌倉時代に開かれた宗教で、法華経がお釈迦様の正しい教えとして、妙法蓮華経または南無妙法蓮華経と題目を唱えることで死後に霊山浄土に行くことが可能となると信じる仏教です。題目を唱えるだけでよいという手軽さから庶民に広く浸透したといわれ、浄土真宗などと並び、庶民にとって魅力的な教えだったと考えられます。

しかしその特長ゆえに葬儀にはお金のかかる要素もあり、読経が重要なので読経のたびに金銭的負担がかかるため、結果的に金額の変動が激しくなり、具体的な金額を想定しておくことが難しい面があります。

日蓮宗の戒名(法号)のつけ方

日蓮宗では戒名を法号と呼びます。「院号」「道号」「法号(日号)」「位号」を足して、これらを総称して「法号」と捉えることが通例です。

「院号」は寺院に貢献したなど社会的貢献度の高い方のみ授かり、「道号」は仕事や性格を表して「法号(日号)」は俗名の1文字などを用い、「位号」は昔は階級を表していましたが現在は性別や年齢を表します。寺院の建立に貢献し、お寺との関係が深い場合などは位が高くなるので、同じ家族間でも位に上下が生じることもあると認識しておきましょう。

そのため例えば夫婦間で、妻に院号が付いて夫に院号が付かないといったことも実際あり、ある意味では平等ともいえますが、日本人の慣習的感覚とは異なる状況が起こる場合もあります。

日蓮宗の戒名(法号)のまとめ

法号にかかる費用は貢献度などランクに応じて差があり、約2万円から20万円と幅があります。日蓮宗は他の仏教と比較して独特な葬儀の仕方をするため、お通夜、葬儀、火葬式など、読経のたびに5万円程度のお布施が必要となり、お布施代だけで20万円前後かかることもありますので、かかる費用を確認することが大切です。

少なくとも浄土真宗より費用はかかるようですが、参列者も、僧侶と一緒に題目を唱え、葬儀で楽器を鳴らすなど、皆で弔うことができる様式をもつようです。希望されるときには、各寺院に確認したうえで、進めていくとよいでしょう。

戒名をつけますか?

浄土真宗と日蓮宗を例として挙げましたが、それ以外にも沢山の宗派、宗教があります。信仰を持っていない場合は、宗派が分からない方もいらっしゃるのではないでしょうか?

宗派がまったく分からない場合は、親戚をたどり、紋などから調べ、どこの寺の檀家になっているか確認する必要があります。こうした状態の場合でも、戒名を付ける必要はあるのでしょうか?

戒名は、必ず付けなければならないものではありませんから、寺院との関係を踏まえ熟考しましょう。

散骨と納骨の違い

散骨と納骨の違い
戒名を付けなかった場合は、その寺院に納骨するのは難しいことが多いようです。その場合の供養として納骨と比較しながら、散骨について考えたいと思います。

納骨の場合

墓をもっていれば、その墓に入ることになりますし、墓がない場合でも永代供養として合祀を前提に寺や墓に納骨することもできます。

散骨の場合

遺骨を撒くため、事件など問題にならないように粉骨する必要がありますが、墓もその後の供養も必要ではないので戒名も必要なく、寺との付き合いも必要ありません。

付き合いのあるお寺がある場合は、戒名を付けて墓に入ることはある意味では必然と考えられます。寺院によっては、戒名を付けないと納骨できない場合もありますので、事前に確認をとっておくことをおすすめします。

散骨と宗教とのかかわり

散骨と宗教とのかかわり
「散骨とは、火葬された遺骨を細かく砕いて海や山、空などに撒く葬送の方法」と、日本大百科全書(ニッポニカ)にもあります。自然に還ることを願って行われる自然葬の一種で、法務省は、節度をもって行われる限り違法性はないとの非公式の見解を過去に示しており、実際は昔からあったものと思われますが、近代の葬送の形としてはまだ新しい方法です。

その供養方法を前提とする宗教は見当たらず、宗教とかかわりなく自然へ還る自由な葬送方法ではないかと考えられます。

手配の仕方

納骨する場合と散骨する場合では、手配の仕方はどのような違いがあるのでしょうか?

納骨する場合

寺院と付き合いがなければまず家の宗派を調べ、これからお世話になるお寺を探す必要があります。生前に探しておくと安心ですが、亡くなった後であれば葬儀社に相談すると紹介してもらえる場合もあります。

散骨する場合

どのような散骨を希望するかをまず検討し、業者を探し、散骨場所を探した上で、散骨の意思を親族に伝えておく必要があります。まだ経験者の少ない供養の方法ですし、宗教とのかかわりがない分、親族に納得してもらうことがとても大事になります。

亡くなった後、死亡届や火葬許可証を取り、火葬するところまでは納骨と一緒です。

お金のかかり方
お墓に埋葬する場合

墓の購入費用が約200万円かかるといわれており、その後も管理費やお布施で費用がかかります。

散骨する場合

業者に依頼するか、個人的に散骨場所を探し散骨するかなど選択肢が多いです。業者に委託する場合は約5万円からあり、海洋への合同散骨は約10~15万円、個別で散骨する場合は約20~30万円が一般的な相場のようです。

個人で散骨する場合も、粉骨作業は心情面や労力を考えて業者に依頼するほうがよいと思われます。また、散骨場所は、水源地や観光地など風評被害につながるような場所は避けなくてはなりませんし、遠洋に出る船をチャーターすることなど考えると、信頼できる業者を探すほうが安心でしょう。

散骨を選んだ場合、今あるお墓の行く末

散骨を選んだ場合「今あるお墓の行く末」
散骨は、のこされた家族にお墓を維持するための負担をかけたくない場合や、子供がおらず墓地を守る後継者がいないという場合に希望する方が増えています。その場合に「今あるお墓をどうするか?」ということが問題になります。

代々続いたお墓を自分の代で終わりにすることは勇気がいりますが、お墓を守る後継者がいないために荒れ果ててしまうことを考えると墓じまいがひとつの選択肢となることも少なくありません。ここからは墓じまいについて考えます。

お墓の後継者がいなくなった場合

少子化や遠方で墓参りに行けない、維持費の問題があるなどが理由となり墓じまいをする方も増えたようです。そのまま放っておけばお墓は荒れ、培ってきたお寺との関係にもひびが入りかねない状況の打開策として、永代供養という供養方法もあります。

永代供養とは

寺院などの納骨堂で一定期間、遺骨を管理・供養した後に合祀墓へ埋葬する方法、あるいは最初から合祀墓へ埋葬する方法のことをいいます。

墓じまいは大きな決断ですので、親族との話し合いが重要です。

お墓に納骨した遺骨を散骨する場合

例えば、墓じまいをした後に海などへ親族の遺骨を散骨し、自分が亡くなったときに同じ海へ散骨するということもできます。ただし、分骨をしない限り、散骨をしてしまうとお参りすべき遺骨の所在がなくなるため、お参りする場所もなくなってしまうのです。

親族との話し合いも墓じまいする上に、散骨をするとなると理解してもらうために時間もかかるケースもあるでしょう。話が決まれば、お墓から魂を抜く閉眼供養(浄土真宗の場合はお礼の意味の読経)などもありますし、気持ちよく送り出していただけるよう丁寧な説明を心掛けたいところです。

また、改葬許可証取得のため、埋葬証明書や改葬許可申請書も市区町村の役所へ提出する必要があり、また閉眼供養や墓石の撤去にも費用がかかりますので、しっかりした資金計画が必要です。

お墓に納骨した遺骨を樹木葬にする場合

既に埋葬されている親族を散骨することに、躊躇する方もいらっしゃるのではないでしょうか?

自分が散骨したいからといって、お墓に眠る親族まで付き合わせてよいのか、意思を確認していないのに突然、海に投げ出されたら驚かないかなどいろいろ考えてしまいます。そんな方には「樹木葬」をおすすめしたいと思います。

樹木葬も自然葬の一つですが、散骨とは違います。埋葬場所がはっきりしていますのでお参りに行く場所自体はなくなりません。

樹木葬は、一般的に墓石を作る場合より安価で継承者不要の場合が多く、一定期間が過ぎると永代供養をしてもらえるため安心感があるといわれます。検討される場合は、業者などに詳しく聞いてみるとよいでしょう。

まとめ

1.戒名とは仏教を学んだ証として本来は生きているうちに与えられるもので、亡くなったからといって必要ではない
2.浄土真宗では戒名を法名と呼び、戒律がなく作法も簡素で自由な仏教であり、位牌が必要ない
3.日蓮宗では戒名を法号と呼び、唱えることに価値を置く庶民の宗教ではあるが、そのため葬儀等では金銭面に負担がかかる
4.寺院やお墓に納骨する場合は戒名が必要となる場合が多いが、散骨では必要がない
5.散骨はお墓を建てるより安価だが、特に墓じまいには永代供養や樹木葬などの方法も考えられる

散骨は戒名もいらず、費用負担も軽減できる葬送方法です。しかし、散骨という選択については家族や親族と腰を据えて話し合い、皆が納得できる答えを導きたいものです。

著者情報

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未来のお思託編集部
散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。