散骨とは遺骨を自然に還す感覚の自然葬
終活や墓じまいを検討する際、自然葬や散骨という言葉をよく聞くけれど「そもそも散骨とは何かよく分からない」という方は多いのではないでしょうか?
遺骨を海や山河にまく葬礼(三省堂 大辞林第三版より引用)です。
散骨などにより、自然に回帰しようとする葬儀(三省堂 大辞林第三版より引用)を指します。
散骨を実際に選んだ場合に知っておきたい知識を紹介します。
散骨を選ぶ理由は?散骨のメリットとデメリット
葬送に散骨を選びたいと思うのは、いったいどのような理由からなのでしょうか?
生命保険会社の調査によると、「自然に還りたい」と「家族に迷惑をかけたくない」という理由が挙げられています。
社会全体のナチュラル志向が強い中、生前から自分の葬儀や埋葬について考えている方々には理想の終わり方のひとつとして注目されているのです。
核家族化が進む中、子孫が墓を継いで管理することが難しいという方も増えている現代。墓や仏壇などが、残された家族の負担になってしまうかもしれない、という考えから散骨を選びたいという方も多いのです。
では、実際に散骨を選ぶと、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?
散骨を選ぶメリットを2つ紹介します。
「自分が死去したら遺骨をまいてほしい」と生前から希望されていたり、「故人の思い入れのある場所でお別れをしてあげたい」と考えていたり、故人のことを想って散骨を選ぶ場合があります。故人の想いに応えられたという気持ちは、悲しみに沈む中で、温かな光となるでしょう。
先祖代々続く墓は、今を生きる子孫の誰かが管理をしなければなりません。昔と異なり、生活が多様化している現代社会では、家族や一族内で墓に関わる問題が数多く生じています。
墓のある場所から遠く離れて生活していたり、継いでくれる子孫や親戚がいなかったり、墓の維持が困難になっているのです。すべての遺灰を散骨すると、墓をもたないという選択肢が生まれます。
遺された家族が墓守をしなくてもよく、離れた場所にあるお墓まで行く必要もないのです。
散骨を選ぶことで考えられるデメリット2つ紹介します。
散骨は、遺骨をまくという性質上、精神的に受け付けられないと感じる方もいるかもしれません。人が亡くなれば、先祖代々受け継がれてきた墓に埋葬され子孫が供養をする、ということが現在では一般的だからです。
また、環境や周囲への影響から、散骨に対してよい印象をもっていない方がいる可能性もありえます。さらに寺院の檀家である場合、菩提寺にも相談する必要があるでしょう。
故人の強い希望があったとしても、葬送に関わる方々皆が納得しなければ、散骨を実行することは難しいといえます。
すべての遺骨を散骨した場合、墓をもたないという選択ができます。墓参りや法要は、墓がないとイメージしにくいかもしれません。
後述しますが、一部を散骨して手元に残し、手を合わせる場所を作っておく場合もあるようです。
散骨はどこでできる?代表的な散骨の種類4つ
散骨には多種多様な方法があり、故人の意向や趣味、遺族の状況や環境などに合わせてさまざまな種類から選ぶことができます。今回紹介するのは4種類の散骨です。
どの方法も、自然に還して故人を悼む考え方は同じです。
海洋散骨は、主流な散骨方法です。船から海面に向かって散骨しますが、乗船する船は「個別」か「他家族と合同」のどちらかです。
遺族が乗船せず、「業者に委託する」こともできます。
自分で船の用意ができる方は、後述するマナーを守れば、業者を介さずに散骨することも可能です。しかし、個人で海洋散骨をすることはリスクがあります。
散骨業者によっては、1家族だけのプランがあり、船の手配だけではなく担当者が同乗してくれることもあります。親族のみなので、気兼ねなく故人との別れの時間を過ごすことができます。
散骨業者が用意する船に、他の家族と一緒に乗り込み、散骨を行います。見ず知らずの方々と一緒に葬送を行うことになり、気遣いが必要かもしれません。
散骨業者が散骨スポットまで連れて行ってくれます。乗り合いのため、大き目の船を使用することが多く、設備が充実しており、揺れも少ないようです。
用意した副葬品や花を一緒にまいたり、祈りを捧げたり、業者の進行によって散骨します。
健康上の理由などから、船に乗って海洋に出ることが難しい方もいます。海で散骨する場所は、沿岸から離れているため、乗船している時間は短くありません。
また、港から遠く離れた場所に住んでいると、港へ向かうには時間と費用が多くかかり、負担が大きくなります。そういった方々のために、委託された遺骨を海洋散骨する業者があります。
業者によって手続きや流れは異なりますが、散骨後に時刻や場所が通知されるようです。
山間部で散骨する場合、以下の3パターンがあります。
自分に所有権のある山で、いつでも好きな場所を選んでまくことができます。後述しますが、遺骨をそのまま土に埋めると違法になってしまうので、粉骨して土の上にまくことが条件です。
なお、散骨した場所は、別の用途に使うことが難しくなります。
散骨できる山を所有している散骨業者や寺院に依頼すれば、山散骨を行うことができます。業者や寺院から指定された場所での散骨となりますが、煩雑な手間はかかりません。
立ち会わず、委託して散骨してもらうことも可能です。
国内では、島根県隠岐郡海士町のカズラ島のみです。自然公園法が適用される、大山隠岐国立公園の中にある無人島で、島そのものを自然の散骨所としています。
頂上の散骨場所で土に直接まき、自然と一体化させる散骨ができます。
遺骨を宇宙空間まで飛ばす散骨方法です。「宇宙に散骨してほしい」と生前に希望があったり、天文や宇宙に造詣の深い方だったり、宇宙に関わる葬送方法を選びたい方にピッタリの葬送方法です。
少量の遺骨が入ったカプセル容器を搭載したロケットが飛ばされます。人工衛星のように地球を周回するコースや、月に向かうプラン、どこまでも宇宙空間を進んでいくものなど、業者によってさまざまです。
風船に遺骨を乗せて飛ばす散骨もあります。風船が成層圏まで上昇すると、気圧の急降下で膨らみ、自然に破裂することで宇宙空間へ散骨できる仕組みです。
セスナ機やヘリコプターから空中へ散骨する方法です。故人との思い出の場所を回り、別れの時間を過ごします。
自然葬の中でも「樹木葬」という言葉を多くの方が耳にしたことがあるでしょう。散骨の1種のように思えますが、樹木を墓標とする墓に遺骨を埋葬するため、散骨とは異なります。
樹木葬を行っている業者や霊園によって異なりますが、指定された区画内に遺骨を埋葬し、目印となる樹木を植え、お墓の代わりとします。樹木葬は、主に「里山型」「霊園・寺院境内型」に分類されます。
自然を活かした場所で埋葬と植樹を合わせて行います。
花や緑に囲まれた広めの霊園や、寺院の敷地内に埋葬します。
業者や霊園、寺院によって、遺骨の納め方や墓標とする樹木など、方法が異なり多種多様です。
散骨とはどういうことをするのか?散骨の流れを紹介
火葬を終えた遺骨をすべて散骨することにすると、どのような手順になるのでしょうか?散骨を行う場合の流れを、海洋散骨を例にとって説明します。
- まず、海洋散骨を扱う業者を探して申し込みをする
- その業者と日時やプランを決める
船に乗って行うので即日実施するのは難しいです。また、天候によって延期となる場合があるので余裕をもって予定を組みましょう。
また、同意書の記入や埋葬許可証などの書類提出を求められる場合があります。必要は物は業者に確認しておきましょう。
それでは、ここから散骨までの流れを紹介します。
散骨をする場合、自然に還りやすい状態である粉状(2mm以下)に遺骨を加工する必要があります。粉末でなければ、遺骨を遺棄していると見られてしまい立ち会う方々の宗教的感情を害してしまうだけではなく、違法と判断されてしまう可能性もあります。
自分で散骨を計画している場合も粉骨を依頼することがおすすめです。火葬で焼き固められた遺骨を自力でパウダー状にするのは、大変な労力がかかります。
業者によっては、立ち会うことができます。
粉骨した遺骨をまくため、散骨場所へ向かいます。海洋散骨では、乗船する船の手配が必要です。
業者に依頼する場合、船代は含まれている場合が多いです。乗船後の流れを紹介します。
業者指定の船着き場から乗船します。
乗り場は散骨に向かう船専用ではないことが多いので、周囲への配慮が必要です。
船には、業者の担当者や専門スタッフが乗り合わせます。
散骨する場所は業者によって異なりますが、他の船の視界に入らず、漁場にも配慮した沖合で行うことが多いです。
そのため、目的の場所へ到着するまでに時間がかかります。
水溶性の袋に入った遺骨をまき、海に還します。
遺骨をすべてまいても、一部を残してもよいです。
花びらや水溶性のメッセージカードなど、環境に配慮した副葬品を捧げます。
散骨した場所を旋回したり、黙祷したり、故人を偲ぶ時間を過ごします。
港で下船して終了です。
後日、散骨した場所が記載されている証明書が発行されたり、散骨時に撮影した写真が送られてきたりします。なお、散骨そのものを業者に代行してもらう場合、粉骨した遺骨を引き渡し、後程、完了の連絡をもらって終了です。
気になる散骨の費用とは?
散骨を検討する際、費用が気になりますよね。種類別に参考金額を紹介します。
なお、種類だけではなく、依頼する業者によっても大きな差があります。代金に含まれているサービスの範囲や、副葬品などのオプションの有無を確認することをおすすめします。
また、散骨を行う場所まで直接足を運ぶ場合、交通費や宿泊費がかかります。海外で散骨を行えば、旅費がより高額になります。
(例)2.5万円~
粉骨のみでも受け付けている散骨業者があります。
個人で散骨する場合は、利用することをおすすめします。
(例)1家族のみ25万円~ 合同乗船12万円~ 代行委託散骨5万円~
散骨業者の用意する船に乗り合う合同乗船であれば、1家族のみで行うより費用は抑えられます。
散骨業者にすべて委託する場合は、より安くできる傾向です。
(例)10万円~
業者の所有する敷地内や寺院の境内など、場所や散骨を依頼する業者によって異なります。
自分の所有する山に散骨すれば、費用はかかりません。
(例)ロケットに搭載50万円~ バルーンを使用24万~
月面に散骨するものは250万円ほどで、プランによってさらに高額になります。
バルーンを使用する宇宙葬であれば、金額は抑えられます。
(例)20万円~
セスナ機やヘリコプターをチャーターして行うため、業者によって費用は大きく異なります。
もしかして散骨は違法?法律と規制について
遺骨をまくという行為から、違法性を疑うかもしれませんが、散骨を規制する法律は存在しません。国は墓地、埋葬等に関する法律において、散骨を禁止する規定はないとしているというのが一般的な解釈です。
では、どのように散骨しても問題ないのでしょうか?
『墓地、埋葬等に関する法律(墓地埋葬法)』がありますが、そちらに、散骨、という言葉は登場しません。そのため、散骨には明確な法律規制が存在しないのです。
遺骨の埋葬については、刑法190条に「遺骨を遺棄してはならない」とあります。また、墓地埋葬法では、「墓地として指定された区域以外に埋葬してはならない」と定められています。
粉骨せず、明らかに遺骨であると分かる状態で散骨してしまうと、法に触れてしまう可能性があるということです。刑法190条は、死者に対する社会的習俗としての宗教的感情を守るためにあるので、散骨に関しては「節度をもって行われる限り問題ない」とされている、と解釈するのが一般的です。
常識ある行動を取り、マナーを守れば散骨を行えるのが現状です。
散骨に関する条例を制定している自治体があります。散骨業者を介さず個人で散骨を行う場合、特に注意する必要があります。
明文化されている条例の中には、散骨が全面的に禁止され、個人の敷地内であっても不可とされているものがあります。埼玉県秩父市では「秩父市内で焼骨を散布しようとするすべての人」を対象に、「墓地以外の場所で、原則、散骨(焼骨を一定の場所にまくこと)をしてはならない」と条例で規制しています。
北海道岩見沢市では、「散骨は、散骨場以外の区域において、これを行ってはならない」とされ、個人的に行う場合は届け出が必要とされています。いずれも、観光や農業の評判や公衆衛生の面を鑑みて制定されています。
散骨をする際、何か申告が必要なのでしょうか。前述の通り、条例によっては届け出をしなければならない自治体がありますが、基本的には申請の必要はありません。
東京都保健福祉局もホームページ上で、『散骨は「墓地、埋葬等に関する法律」に規定されていない行為であるため、法による手続きはありません」としています。墓じまい後に散骨をしようと考えている方もいるでしょう。
その場合も、自治体によって申請方法が異なるため、確認が必要です。墓地の管理者から取得する「遺骨引き渡し証明書」や、自治体から発行される「改葬許可書」などの書類があります。
散骨は改葬に該当しませんが、違法ではない遺骨であるとの証明のため、散骨業者に書類の提出を求められる場合もあります。
ルールはある?散骨で守るべきマナーとは?
散骨について、明確な法規制は存在していません。個人の自由で散骨を行うことはできますが、前述した「節度をもって」散骨することが大切です。
トラブルのない葬送になるよう、人や環境へ配慮することが必要だといえるでしょう。
どのような散骨方法であれ、故人とのお別れが温かなものになるよう、家族のみならず周囲の人に配慮し、節度を守る必要があります。守りたい3つの項目を挙げます。
粉骨することで法律に抵触しないよう配慮できるだけではなく、周囲への宗教的感情を守ることができます。さらに、自然に還りやすくなり、環境にもやさしくなります。
霊園・寺院の敷地内や散骨専門の区域ではなく、所有する土地や海洋で散骨をする場合は、他の方の視界に入らないよう注意しましょう。散骨にあまりよい印象をもたない人もいます。
かといって、隠れてこっそり散骨するのは気持ちのよいものではありません。よりよい葬送になるよう、日時を工夫する必要があります。
違法行為ではないからといって、どこでも散骨を行ってよいわけではありません。河川や滝など水源地の近くは、社会的に問題が生じるかもしれません。
浜辺や海岸から散骨することもモラルに反します。また、散骨した場所に石碑や墓標を立てると、トラブルの原因になる可能性がないとも言い切れません。
モラルに欠ける行動は慎み、節度ある葬送にしましょう。
故人を自然と一体化させるイメージがある散骨ですが、環境汚染につながってしまうとしたら残念な気持ちになりませんか?
ここからは、環境に配慮するためのポイントを3つ紹介します。
散骨は海洋や山間部など人の手が入らない場所で行うことがあります。副葬品は、自然に還りやすいものを選び、環境汚染につながるものは避けましょう。
防火も大切です。特に山間部では気をつけなければなりません。
線香やロウソクをもち込むのは止めましょう。
火葬後の遺灰には、「六価クロム」という環境に影響を与える物質が含まれていることがあります。粉骨時に、遺骨の洗浄と解毒を行い、散骨しても問題ない状態にする必要があります。
誰に頼む?節度を守る業者に依頼しよう
散骨を検討する際、誰に相談しますか?
インターネットで検索すれば、多くの散骨業者がヒットします。大手葬儀社から、散骨専門業者まで、濫立している状況です。
大切な葬送を任せられる企業を見分けるポイントを3つ紹介します。
節度のある散骨を行っているのか、実績を確認しましょう。マスコミの取材を受けた経験も参考になるかもしれません。
電話で問い合わせてみましょう。金額面ばかりを話題にされてはいませんか。
散骨は手段であり、故人との別れという大切な葬送のひとつです。依頼人の気持ちに寄り添った葬送を考えてくれるかどうかも、大事なポイントです。
散骨は届け出の必要がなく、節度を守れば自由に行えます。業者に依頼せず自分で行えば、安価で済む上、自分の都合に合わせることができます。
とはいえ、すべて自分で行うとなると大変な労力を要するでしょう。
散骨する場合は必ず行います。時間はかかりますが、自分ですり鉢に入れて粉砕することもできます。
自治体によっては、個人の敷地であっても散骨を許可していない条例を施行している場合があります。また、既に埋葬された遺骨の一部を散骨したい場合、改葬許可などの手続きが必要かもしれません。
トラブルを避けるためにも大切です。
節度を守った散骨になるよう配慮しましょう。
散骨後の供養はどうする?
仏教の葬儀を行うと、四十九日法要や一周忌などの法要があり、関係する方々と故人を偲ぶ機会があります。散骨した場合は、どうなるのでしょうか?散骨後、どこに手を合わせていいのか分からないと思うかもしれません。
故人を自然に還す散骨では、法要の有無も自由です。宗教的な決まりごとはありません。散骨した場所に向かって合掌したり、再訪して献花をしたり、思い出を語り合ったりして故人に想いを馳せることが供養となるでしょう。
散骨業者によっては、散骨した場所を訪ねて供養するプランを設けているところもあります。再訪できるよう、散骨時に緯度と経度を聞いておくとよいでしょう。散骨時に散骨証明書を受け取った場合は、そちらに記載があります。
「遺骨をすべて散骨することに抵抗を感じる」「さみしくなってしまうかもしれない」という方もいるでしょう。一部のみ散骨する、部分散骨という選択肢があります。
散骨に決まりはありません。すべて散骨する必要はなく、散骨する方の自由です。
粉骨した遺骨は容積が小さくなり、手元に置きやすいというメリットがあります。仏壇や飾り棚を用意して自宅で安置すれば、従来と変わらない法要が行いやすいです。
さらに、いつでも故人を想って合掌ができ、墓まで行かなくてもよくなります。高齢の方や移動に負担がかかる方におすすめです。
ネックレスや指輪などのアクセサリーに加工して身に着けたり、小さな袋や瓶に入れて肌身離さず持ち運んだりすることもできます。
まとめ
一部のみ散骨し、残りの遺骨を手元で供養することもできます。 散骨の特徴を知って、故人や家族に合ったお別れの形を考えてみましょう。
散骨にはさまざまな方法があり、自由だからこそ、故人を想う気持ちが何よりも大切です。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |