最近、墓じまいがテレビやインターネットでも多く取り上げられるようになりました。墓じまいに関係するサービスも増え始め、一種のブームのような状態になっています。
しかし、このブームにただ流されて、墓じまいをしてしまうのは危険です。きちんと考えて準備しないと、トラブルに巻き込まれることにもなりかねません。
そこで、今回は「墓じまいとは何なのか?」そして「墓じまいは何のために行うのか?」について改めて一緒に考えていきたいと思います。
墓じまいには供養のあり方の再構築する意味がある
しかし、お墓を処分したからといって、故人を悼み供養することをやめることにはなりません。故人を悼む気持ちは、お墓があろうがなかろうが変わりないからです。
ただ、供養の方法を少し変えることになります。墓じまいの後の供養には、その後の遺骨の行き先によってさまざまな方法があります。
今まで通り、周年忌の法要を行いお経をあげて供養する方法はもちろん、年忌法要にとらわれない、新たな供養の方法も出てきています。墓じまいすると、その家族にあった供養の方法を自由に選ぶことができるようになります。
つまり、現代の墓じまいには、家族にとっての「供養のあり方」を再構築し、その家族にあった方法で供養するという意味も加えられているのです。
墓じまいの背景
そこで、ここでは墓じまいが注目される背景について、主なものを5つ紹介します。ご家族の状況に当てはまるものはないか、考えながら見ていきましょう。
「3世代同居」がよくあることだった時代、1組の夫婦が育てる子どもの数も多く、兄弟が6人や7人というのも珍しくありませんでした。親が亡くなった後は、誰かがお墓を継ぐのが当たり前で、複数の子が協力してお墓を守ってきました。
しかし現在は、少子高齢化が進み、1組の夫婦が生み育てる子どもの数も激減しています。「家を継ぐ」という概念が薄くなった今、近い将来、お墓を継ぐ子がいなくなる可能性が高いご家族も増えています。
最近は少子高齢化と並び、「核家族化」も進みました。
一昔前は、核家族化した夫婦が「亡き後も一緒にいたい」とお墓を買うことがよくありました。その夫婦の子がいれば管理してくれるかもしれませんが、将来その子に子が生まれるとは限りません。すると、夫婦亡き後のお墓を管理できる人がいなくなる…という問題に直面するのです。
仕事や教育環境などの事情で、地方にある実家から出て、都市部に家を購入する家族も多くなりました。その結果、実家の近くにあるお墓が遠くなってしまい「普段のお参りすら足が遠のきがちになっている」ことに悩む方も増えています。
今は、実家の両親がお墓の管理をしていても、いつかきっと自分の代に管理が回ってきます。その時、本当に管理を続けることができるのか…不安になってしまうのは当然のことでしょう。
自身が元気なうちはお墓参りができても、高齢になってくると足腰が弱くなり、お墓参りから足が遠くなることもあります。高齢になり、車の免許を返納したことで、お墓参りに頻繁には行けなくなった…という方もいるようです。
「お墓が家から近くにさえあれば行けるのに…」と気を揉むくらいならと、墓じまいを検討する方が増えています。
お墓を管理するというのは思っている以上に大変なことです。毎年訪れるお盆やお彼岸への対応もありますし、年忌法要の準備は、寺院や親族への調整も必要です。
そして、お墓の管理や法事は金銭的にも大きな負担となります。その負担を将来、子どもに負わせたくないと思う方が増えてきています。これが墓じまいを検討する1つの要因となっています。
墓じまいの流れ
墓じまいを決断したとき、実際どのような流れで行うのでしょうか?おおまかな流れを確認しておきましょう。
遺骨の新たな受け入れ先となる墓地・納骨堂と契約を行い、「受入証明書」または「墓所使用承諾証」を交付してもらいます。ただし、自宅で供養する場合はこの手続きは不要です。
既存のお墓がある市区町村の役所で「改葬許可申請書」と「埋葬証明書」を入手し、必要事項を記入します。
既存のお墓の管理社に了承を得たら、現在遺骨が埋葬されていることを証明する「埋葬証明書」への署名・捺印を依頼し、同時に閉眼供養の手続きや墓地を更地にするための手続きを確認します。
記入を終えた「改葬許可申請書」と「埋葬証明書」、および「受入証明書(墓所使用承諾証)」、を役所に提出し、「改葬許可証」を発行してもらいます。
既存のお墓でお経をあげて、遺骨を取り出します。遺骨を取り出した後は、墓石の撤去や移動などを行い更地に戻します。
改葬(お墓を引っ越すこと)の場合は、移転先の墓地・納骨堂に「改葬許可証」を提出して納骨します。
墓じまいすることで得られること
墓じまいには上記のように多くの手続きを要します。これだけ手続きが必要なのか…と驚かれた方もいるかもしれません。
これらの手続きの他にも、以下のような細々としたやりとりも多く、精神的にも大変な作業になるのは間違いありません。
- 既存のお墓があった墓地との関係を整理すること
- 親族へ説明のため連絡を送ること
しかし、それをしてでも墓じまいをする人が増えているのは、墓じまいすることで多くのメリットを得られるためです。次項では、墓じまいをすることで実際どのようなメリットが得られるのかについてまとめた5つを紹介します。
墓じまいは手続きが大変だし、金銭的にも親族の説得も困難。もう難しいことは気にしないようにしよう…と、墓じまいをせずそのまま放置しておいたらどうなるでしょうか?
お墓を管理している人が亡くなり、誰もお墓を管理する人がいなくなると、その遺骨は「無縁仏」になってしまう可能性があります。
無縁仏にしてしまうということは、懸命に生きていた故人をひとり孤独にさせてしまうことになるのかもしれません。墓じまいをすることで、大切な人をそのような孤独から守ることができるようになります。
お墓の管理に関する費用は、思った以上にかかるものです。
寺院で遺骨の管理している場合、毎年お墓の「管理料」をはじめ、法事ごとに「お布施」や「車代」や年忌法要ごとの「食事会費」といった費用もかかります。墓じまいをしてその家族にあった供養方法に変更すると、それらの費用が抑えられることがあります。
契約費用にその年数の供養にかかる費用が含まれるので、新たな出費が抑えられます。
お墓の管理料そのものがかからなくなります。
故人を悼むことはもちろん大切ですが、今後の生活費をきちんと確保することはとても大切です。墓じまいすることは、生活と供養のバランスを保つことにつながるのです。
墓じまいをすると、供養の選択肢が大きく広がります。
「永代供養」や「改葬」など、今までの供養に比較的近い方法を継続することもできますし、「散骨」や「自宅供養」といった仏式にこだわらない供養も可能となります。
エンディングノートを用意する人が増えるにつれて、死後の遺骨に関するご自身の要望を表明する方が増えてきました。その中には「自然に還りたいから散骨してほしい」「家族のぬくもりを感じたいから遺骨を一部家に置いてほしい」といった希望を書く方もいます。
先祖の願いが分かっているならば、墓じまいをすることは、このような最期の希望を叶えてあげられる大きな一歩となります。供養の方法を選べることは最後まで自分らしくいていい、自分らしくいさせてあげられることにつながるのです。
自身で既存のお墓を手放すことをせず、無理をして子どもに管理してもらうとどうなるのか考えてみましょう。
それは、金銭的な問題をはじめ、お墓の管理にかかる寺院とのやりとりや、将来にわたる管理といった諸々の問題を子どもの代に押し付けて、お墓の問題を先送りしているだけ、といった場合がありませんか?
もちろん、大切なお墓を守り続け、「子どもの代になってもお墓の問題は発生しない!」というならば心配いりません。しかし、少子高齢化・核家族化が進む現在、問題がないほうが少数派となってきています。
必要ならば、墓じまいをすることで、お墓や供養の件で子どもが頭を悩ませることは少なくなります。そうすれば結果的に、ご自身の心配事もなくなることにつながり、心身共、身軽に余生を過ごせます。
近ごろは人々の生活から「宗教」との関わりが薄れて、寺院との直接的な関係も希薄になっているといわれています。実際に、お盆やお彼岸、年忌法要以外で寺院との関係を保っている人は減ってきているようです。
墓じまいを検討するということは「関係が希薄になりつつある寺院と付き合い続けるか、それとも関係を清算して別の供養の道を考えるか」について冷静に考え、家族と寺院の関係のあり方を整理することにつながります。
ただ、実際に墓じまいをすると、今までお世話になった寺院との関係を、好むと好まざるとに関わらず解消することになる場合がほとんどです。それまで寺院とよい関係を保っていた場合は、特に慎重に考えて決断したほうがよいでしょう。
墓じまいを価値あるものにするためには
家族にとって、今後の供養のあり方を左右する「墓じまい」ですが、強引にことを進めていくと、さまざまな問題に突き当たるので注意が必要です。
墓じまい自体は以前からできるものでしたが、最近特に注目を集め、やっと一般的に認知されてきた経緯があります。そのため、墓じまいをめぐるサービスが急増した一方で、サービスの質が追い付いておらず、トラブルに発展することもあります。
では、墓じまいの効果を最大限活かして価値のあるものにするためには、一体どのようにすればよいでしょうか?墓じまいをするときには絶対押さえておきたいポイントを3つにまとめました。
まずは、遺骨の行き先にもなる「供養の方法」について、どのようなものがあるかを徹底的に調べましょう。供養の方法によって、かかる費用も大きく変わってきます。
散骨するときは遺骨をパウダー化する費用が発生し、さらに海洋に遺骨を撒くときにはクルージングの料金がかかります。また、散骨すればお墓は必要なく、管理料はかかりませんが、お墓がないのでお参りをしたくなってもできません。遺骨を撒いた同じ場所にお参りしたいとなれば、そのクルージング代は別途かかります。
といったように、散骨にもメリットとデメリットがあり、他の供養方法でも同じことがいえます。そのため、きちんとその両方を把握した上で、供養方法を決めることが大切です。
墓じまいがブームのようになったため、それに目を付けた新たな事業者が参入してきています。もちろん良心的な業者もありますが、遺骨の取り扱いに慣れていないためにサービス内容が不十分であったり、途中で撤退してしまったりといった業者と出合ってしまうことも考えられます。
業者とのトラブルを回避するためには、契約前にしっかり複数の業者について調べて比較することが大切です。
ホームページを見て調べる際に企業情報を調べて、地図と確認するなどして実態があるのかをチェックすることができます。また、直接電話で問い合わせて、その対応が丁寧か、費用面などあいまいな説明がないか、確認することもできます。
信頼できる業者を選ぶことが墓じまいを成功させる近道ですので、面倒くさがらずにしっかり調べましょう。
墓じまいはとてもデリケートなものです。
特にお墓での供養が当たり前として育ってきたご親族なら、散骨などのお墓を持たない新たな供養の方法に驚き、受け入れられない方もいるかもしれません。また、代々のお墓を自分たちが生きている間に閉じることへの罪悪感から反対される親族の方もいるかもしれません。
墓じまいは、故人をないがしろにする行為ではありません。「墓じまいをすることで、故人に孤独を感じさせることがないよう、愛情をもちながら供養し続けることができる」というような、供養に対する気持ちを含めて理解してもらうことが大切になります。
焦ることなくじっくりと親族と向き合い、少しずつ理解してもらえるように話し合いましょう。
まとめ
墓じまいを成功させるためには、事務的な手続き以外にも乗り越えることが沢山あります。しかし、それらを乗り越えることで、その家族にあったオリジナルの供養ができるようになります。
家族にあう供養の方法は、家族によって違います。墓じまい後の供養をどうしたいか、じっくり考えてピッタリな方法を見つけてみてください。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |