長年、供養の場で大切な役割を果たしてきた墓石。その墓石が墓じまいされた後、どのように処分されるのかをご存知ですか?
実際に墓じまいを経験された方でも「墓石を最後まで見届けた」という方はまずいらっしゃらないでしょう。墓石のゆくえは意外と知られていないのかもしれません。
現在、様々なものがリサイクルやリユースされていますが、墓石もまた他のお墓に使われたりするのでしょうか?また、形を変えて再利用されているのでしょうか?
撤去後の墓石がどのように処分されているのかを知り、墓じまいの安心につなげたいものですね。お墓の構造、墓じまいの流れから、業者選びのポイントなども併せてお伝えします。
墓じまいから墓石撤去までの手続きと費用
墓じまいの作業は通常、以下の流れで行われます。
- 閉眼供養
- お骨の取り出し
- お墓の解体
- お墓の撤去
- 墓地の原状回復
- 墓石の処分
お墓から取り出されたお骨はその後、他のお墓や納骨堂あるいは、永代供養墓に移す「改葬」を行ったり、散骨や手元に残して供養をしたりします。ここまでが一連の流れです。
今回は墓じまいの流れの一部である、お役目を終えた墓石の処分について詳しく説明します。
墓じまいの流れは「事前準備」と「実際の作業」と2つに分けることができます。まずは事前準備についてご紹介します。
墓じまいを行う際、行政窓口などに書類を提出しますが、墓じまいする予定の故人の情報を必ず記入します。埋葬されているのが複数体の場合もありますので、情報が曖昧な場合は、お墓の管理者が保管する台帳類などで確かめましょう。
また、墓地の入り口からお墓までの経路や、墓地周辺の様子も確認しておくと業者に相談しやすくなります。
墓じまいをして取り出したお骨をどうするのか決めるのは、早いに越したことはありませんが、同時に後悔しないように慎重に決めましょう。
改葬許可申請書のフォームを提出先である自治体から取り寄せ、改葬先の管理者に署名捺印してもらい、受入証明書を取得します。現在は、フォーム類をサイトからダウンロード可能な自治体が多いです。
業者に必要書類の確認をしましょう。
墓じまいすることの目途がついたら、今あるお墓の管理者に連絡をします。長年の感謝を伝え、埋葬証明書の発行を受けましょう。
受入証明書(②)と埋葬証明書(③)と、改葬許可申請書の3つを窓口に提出し、改葬許可証を取得します。
散骨の場合は改葬許可証を必要としない場合が多いですが、お骨の一部を手元供養などで残す場合などは発行してもらった方がよいでしょう。
墓地により指定石材店が決まっている場合があるので確認します。決まっていない場合は、複数の石材店から見積書を取ることをおすすめします。
準備が整った後は予定に沿って墓じまいの作業になります。
一般的に墓石には故人の魂が宿ると考えられていて、墓石をただの石にするために魂を抜く儀式が行われます。この儀式を仏教では閉眼供養と呼びます。他の宗教では名前が異なるようですが、同じような儀式が行われるようです。
閉眼供養をすることにより、墓じまいをする人の気持ちの整理がつくと思われます。
儀式は日程調整が必要ですので、僧侶などに早めに相談しましょう。
魂抜きを終えたらお骨の取り出し作業です。墓石を動かすときは、石材店にお任せするとよいです。
ほとんどの墓地が管理規定で原状回復して返却と決められていますので、墓地をさら地に戻さなくてはなりません。重機を使い墓石を撤去するなど、大掛かりな作業になる場合が多いです。
具体的には石塔(お墓の本体)を解体撤去、根石(お墓の土台)の撤去と残土の処分などになります。お墓の解体と撤去、残土の処分が終わったら、さら地に戻して墓所に返還します。
以上が墓じまいの流れになります。
さて、気になるのは墓じまいの費用ですよね。費用は、お墓の大きさや墓地の立地条件などで大きく変わりますが、目安は1坪20~30万円と言われています。
業者が墓じまい費用をどのように案内しているのか、いくつか例を挙げてみましょう。
リサイクル料込みの基本料金で2トン車2.5万円~
墓石処分までを含むことが明記され、処分量による運搬車の大きさで料金設定されています。また、運搬する距離により加算費用が変わる旨案内されています。
墓じまい作業3.5万円/1㎡~ 手続き代行3万円~
作業費用と手続き費用が必要との案内があります。
解体費用8寸2重台1㎡巻石12万円 8寸3重台3㎡巻石18万円
お墓の大きさで解体費用が算出される案内です。
他に公営墓地では、墓石の撤去に5.5万円程度などと案内されています。(石材店によっては異なる場合や年度により変動があります。)
墓じまいの費用は次のように5つに区分されています。客観的な数字の例として参考にしてください。
- 墓石処分・・・費用の算出なし)
- 区画整理・・・1㎡につき1~15万円
- お骨の取り出し・・・1体0~3万円
- 閉眼供養・・・1~5万円
- 離壇料・・・寺院により異なる
墓石処分は、墓石を運搬して処分することを指しています。運搬する距離が費用に影響するため、実際に業者へ相談しないと費用の算出は難しいでしょう。可能であれば、お墓の近場の業者数社に見積もりを依頼し比較するのがよさそうです!
一般的な墓じまいのほかに、墓石を1つに統合したり、別の場所に移動したい場合があります。
他の墓地にある複数のお墓を一つに統合するということで、閉じるお墓の数だけ墓じまいをすることになります。同じお墓に入れるのは6親等までと限定されている場合がありますので、受け入れ側のお墓の管理者に統合可否の確認を取りましょう。
他にも同じ墓地内の複数の墓石を1つに統合するケースがあります。このケースは墓じまいと改葬を同時に行います。大掛かりな作業が必要ですので、石材店に依頼するようにしましょう。
墓じまいするお墓の墓石を、そのまま改葬先へ移動させて再利用するケースです。代々使用してきた墓石に思い入れがあるという方もいらっしゃるでしょう。
不可能ではありませんが、既存のお墓が改葬先の墓所のかたちや管理規定などに合わないということも考えられます。サイズなど無理に合わせようと加工して、失敗することもあり得えます。どうしてもという場合は、石塔(上の部分)だけの再利用をすすめられるでしょう。
何より運搬に高額な費用がかかるので、改葬先に新しいお墓を建てた方が経済的になる場合が多いです。
お墓の構造をみなさんはご存知ですか?
構造を知ることで、墓じまいの作業の流れがわかりやすくなります。また見積もりを理解する一助になりますね。
お墓を建てたときの契約書に添付された設計図などが保存されていたら、それで確認することができます。何代も前からの古いお墓で設計図がないこともあるので、一般的なお墓の構造を、お墓の見える部分と見えない部分にわけてお伝えします。
また、墓石のかたちのタイプは、大きくわけて3つあります。
- 和型
- 洋型
- デザイン墓石
ここでは伝統的な和型で説明していきます。
墓石の構成は上から
竿石(さおいし)
上台
下台
の三段か四段になっているのが一般的です。
竿石の正面にお題目や「○○家の墓」などの文字が刻まれています。裏に建墓年月日が刻むなど、宗派によって様式が決まっているようです。
その他、付属のものとして灯篭、物置台、墓誌などがあります。そして、境界を明確にする外柵が一般的に作られています。
実は、建墓は基礎工事によって、墓石の重さに耐えられるよう鉄筋コンクリートで支えています。また、外から見えない部分に水抜き、耐震など各石材店の工夫が凝らされているのです。
そして、大切なお骨を入れるカロート(納骨棺)は、納骨の形式によって様々なかたちになっています。最近ではカロートを御影石などで作るご家族が増えているようです。
墓じまい後の墓石は処分?気になるゆくえ
戦国時代に建てられたお城の石垣などに、墓石や石仏が転用されているのをご存知ですか?歴史愛好家の中では有名な話ですが、転用の理由には様々な解釈があるようです。
長崎県南島原市にある日野江城跡石垣の転用石は、領主有馬氏がキリスト教を保護し仏教を排した歴史の表れであるとのことです。そして、多くの史跡では転用に対する理解を来訪者に求める説明文が書かれています。
閉眼供養されているとは言え、墓石はただの石ではないと感じる人が少なからずいるということですね。そのような特別な感情が持たれるのが墓石ですので、無事に魂抜きを終えたとしてもその処分については、多くの人が気になるのではないでしょうか。
処分される墓石は廃棄物?
撤去された墓石は、そもそも廃棄物なのでしょうか?
まず廃棄物かどうかは宗教的感情の対象かどうかで判断されます。対象でないと判断される場合は、廃棄物として扱われます。お墓を改葬するなど、宗教的感情の対象である場合は、有価物として再利用されます。
廃棄物に分類されると、廃棄物の処理及び清掃に関する法律である廃棄物処理法(昭和45年12月25日公布)に沿って対応しなくてはいけません。
産業廃棄物は20種類に分類されています。墓石は分類されて「がれき類」として処分される場合が多いですが、「ガラス・コンクリート・陶磁器くず」「鉱さい」「廃プラスチック類」「金属くず」としても処分されています。
お墓の構造で説明したように墓石は様々な材質が使われているため、墓じまい後は多種類の産業廃棄物が発生することになります。
墓石は、質の良い石が使われている場合が多く、道路の土台などに再利用されることが多いです。形状を変えて再利用される、いわば墓石のリサイクルとして有効に利用されています。
石垣の転用石との違いは、細かく砕かれ元のかたちがまったくわからないということです。元が墓石だったことがわからず、心情的に受け入れられるという人が多いのではないでしょうか。
墓じまいでは墓石だけでなく、様々な産業廃棄物が発生することがわかりました。しかも20種類ほどある分類に従って処分しなければなりません。
公営墓地では、撤去工事を行うに当たっての細かい注意事項があり、いい加減な墓じまいはできない仕組みになっています。
- カロートや基礎等の地下構造物をすべて撤去する。
- 完了検査において10~20センチメートル掘削し、廃石材や残材等が残っていないか確認。
- 何も残っていないことを示す写真を完了届に添付する。
- 墓石を撤去した後は、まさ土を10センチメートル覆土する。
- 隣接区画の巻石等が崩れそうな場合は、セメントやモルタル等で補強する。
- 工事完了後は清掃し、残土、廃石材、残材等はすべて園外に搬出する。
- 使用している区画の墓石等を撤去した後は、必ずさら地にする。
- 撤去した石材や残土を適切に処分する。(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)
このように墓じまい作業は細かく規制され、残土や残材に至るまで残すことは許されません。また、運び出されたものの処分も最後まで責任を持たなくてはいけないのです。
墓石撤去・処分を行う業者について
墓じまい後の墓石類の解体・撤去・運搬を請け負った業者は、廃棄物処理法により「排出業者」とみなされ、廃棄物を最後まで適切に処分する必要があります。
石材店が解体・撤去を行い、その後の運搬・処分まで自社で行っている場合もあるでしょう。一方で運搬・処分については他の業者に委託しているというケースもあります。この場合、廃棄物の品目ごとに認可された産業廃棄物処理業者が委託先として選ばれているはずです。
廃棄物の運搬・処分だけを別の業者に依頼するときは、正確な引き継ぎが求められます。その連携に必要なのが、マニフェスト(廃棄物管理票)です。
マニフェスト制度とは、産業廃棄物の委託処理において排出事業者の責任を明らかにすることと、不法投棄を未然に防止することを目的に、厚生省(元環境省)の行政指導のもと平成2年に始まりました。
墓じまいに関わる業者について当てはめて考えてみましょう。
お墓の解体・撤去までを行うのが「排出事業者」で、多くは石材店になります。その後の処分を「産業廃棄物収集運搬業者」に委託する場合は、その終了までの見届けを排出業者である石材店が必ず行わなくてはいけません。
つまり、委託した産業廃棄物が適正に処理されていることを委託した業者(石材店)が把握する責任があるということです。
排出業者はマニフェスト交付後90日以内(中間処理業者がある場合は180日以内)に、最終処分が終了したかの確認が必要になります。期限を過ぎても処理業者からマニフェストによる処理終了の報告がない場合は、処理状況を把握した上で適切な処置を講じて、都道府県等にも報告する必要があるようです。
墓じまいは主に石材店が行います。墓石類の処分まで一括して行う石材店もありますが、処分を他の業者に委託する石材店もあります。
いずれにしても、墓石類処分まで責任を持って行ってくれる業者を選ぶことが大切です。そこで石材店選びのポイントを紹介します。
建墓に関わった石材店や霊園の指定石材店は、お墓の地下の状態まで把握しているのが利点です。
相見積もりを取ることは、消費者側の注意点としてよく言われています。墓じまいということでも遠慮などせずに、複数の業者から見積もりを取って比較検討しましょう。
「工事一式○○円」だけの見積書では、どこからどこまでの工事を指しているかわかりません。詳細の書かれた見積書を提示し、その他の予想外の工事が発生する可能性などを前もって話してくれる業者が望ましいです。
業者自身もしくは委託先が産業廃棄物処理収集運搬の認可業者かは、必ず確認しましょう。
墓石類の運搬・処分を他業者に委託している石材店は、マニフェストを必ず交付しなければなりません。責任ある業者ならば問い合わせにも気持ちよく応えてくれるでしょう。
不法投棄というと電化製品などを思い浮かべる方が多いと思いますが、墓石の不法投棄も昨今、新聞・ニュースなどで目にします。処分に費用が掛かり、それを嫌って不法投棄する業者が後を絶たないとのことです。
墓じまいを依頼した人が罪に問われることはありませんが、適切に処分されていると思っていた我が家の墓石が不法投棄されていたら、ご先祖さまも浮かばれませんよね。そのため、見積額に惑わされずに慎重に誠実な業者選びをしてください。
まとめ
墓石の処分まで適正に行ってくれる業者に任せれば、墓じまいを安心して進められます。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |