散骨とは、火葬後の遺骨を粉末状にし、自然の中や自宅にまくという葬送の方法です。お墓への埋葬と比較すると費用を抑えられる、故人の意思を尊重できる、核家族など現代の家族形態に合っているといったメリットがあります。
一方、親族の理解が得られにくい、葬送後の心の拠り所がなくなりがち、場所や時期が制約されることがあるといったデメリットもあります。
ここでは、背景や具体例を交えながら散骨のメリットとデメリットを紹介します。
費用面でのメリットとデメリット
お墓への埋葬の場合、様々な費用が長期にわたって発生します。
- お墓の設置費
- 土地代
- 埋葬後の管理費 など
一方で散骨の場合、それらの費用は一切必要ありません。お墓への埋葬と比べて費用を安く抑えられる点が散骨の大きなメリットです。
基本的に遺骨を粉末状にする「粉骨」と、粉骨を撒く「散骨」とで費用が分かれ、どこまで業者へ委託するかで金額が異なります。最も費用を抑えられるのが、業者に粉骨のみ委託して、自分で散骨する場合で、1万円程度から可能です。
粉骨から散骨までを委託すると、2~3万円から可能なケースもあります。ただし、委託する場合は遺族は散骨に立ち会えないので、実際に散骨されたか心配があれば散骨証明書を発行する業者を選びましょう。
遺族が散骨に立ち会う場合、散骨の費用に加えて、散骨場所への遺族の移動費などが加算されます。粉骨と散骨自体が費用を抑えられる一方で、故人の希望などに伴い、散骨を行う場所や形態によって費用が大きく異なってくる点は、費用面でのデメリットともいえるでしょう。
- 粉骨後クルーザーで遺族と共に海上へ移動
- セレモニーを行った上で散骨する
などは、数十数万円かかります。
- 同行する遺族の人数
- 船の種類
- 散骨場所までの移動距離
- セレモニーの有無
などによっても費用が変わります。
業者によってサービスの内容も料金もさまざまですので、複数のプランを比較検討した上で決定することをおすすめします。
少子化や核家族化が進み、祖父母と親、親と子が別々の場所で暮らすことがごく普通のこととなりつつある、現代の日本では、
- お墓を継ぐ子孫がいない
- 子供がいてもお墓が遠くてなかなかお参りに行けない
といった話を耳にすることもあるのではないでしょうか?
また、安定しない雇用でお墓を購入、維持するだけの経済的余裕がない場合もあるでしょう。
そして中には、様々な事情から
- お墓に入りたくない
- 生前に好きだった自然へ還りたい
- 身内や子供に死後までお金の心配をかけたくない
といった思いがある方もいらっしゃいます。
家族の形が多様化する中、様々な思いから散骨に関心をもつ方が増えています。
身近な人を見送る際の思いは、人それぞれです。散骨をよしとする方もいれば、遺骨は先祖代々のお墓に入れるべきと考える方もいます。
ご高齢の方々の中には、お墓、そしてお墓に埋葬するという考えが強い方も多く、散骨に猛反対されるということもあるようです。
- 散骨したら成仏できないのでは?
- 命日などに、どこにお参りしたらいいの?
- お線香はどうやってあげるの?
などを理由に反対される方もいらっしゃいます。
また、中には散骨そのものについては理解できるけれど、遺骨を少し手元に置いて供養をしたいという方もいます。合わせて、暮らしている土地の風習、慣習や宗教の問題など、簡単には解決できないケースもあるかもしれません。
散骨は一度行うと、お骨を元に戻したり、その後どこかに映したりということはできません。故人が散骨を強く希望していた場合でも、親族の中に反対する方がいる場合は、理解してもらえるまでしっかりと話し合うことをおすすめします。
唐突に散骨の提案をするというよりは、お墓を守っていけない自分の状況や、そのために親族に迷惑をかけたくない、という思いをまず伝えると懸念を持っている方からの理解を得やすいかもしれません。
お墓を残さないメリットとデメリット
散骨に伴い、「墓じまい」を選ぶ方が増えてきています。その理由としては、お墓を守る承継者が途絶えてしまうというところが大きいようです。
きちんと墓じまいをしなかったお墓は、いずれ無縁墓として撤去処分され、中の遺骨は合祀墓に移されて、他の遺骨と一緒に扱われることになります。
お寺との付き合いや霊園への管理料の支払いが不要になります。この点は、お墓を残さない選択をした場合のメリットといえるでしょう。遠方のお墓まで時間をかけて行く必要がなくなり、お墓の場所にとらわれることなく、好きな場所、好きな土地で生きていくことができます。
お墓参りを心の拠り所とされる方にとっては、その拠り所がなくなる、というところがあります。定期的にお墓参りすることで故人を偲び、悲しみと向き合い、癒やしていきたいと考える方には、これはとても辛いことでしょう。
散骨後、故人を偲ぶ拠り所が欲しいという方は、遺骨の一部を手元に残す「手元供養」という方法をとることもできます。例えば、遺骨の一部をアクセサリーに入れて身につけたり、小さな骨壺に移して手元に置いておくというやり方です。
古来より貴重な品々の保管用として重宝されてきた桐箱は、湿気に強く、耐火性があり、長期間の保管に向いているため、手元供養でもよく使われます。いつも身につけていたいという方には、遺骨を入れられるように加工したペンダント、指輪、ブレスレット、ブローチなどがおすすめです。
遠方にあるお墓へお参りに行く大変さがなくなり、毎日そばで見守ってくれている感じがすると喜ばれています。
散骨できる場所や時期
散骨を規制する法律はありませんが、地権者や建造物保持者がいる場所、権利が保有されている場所への散骨は、権利者の許可が必要です。自治体によっては、散骨に関する条例やガイドラインを設けているところがあります。
例えば、北海道長沼町や埼玉県秩父市では、条例で墓地以外の場所での散骨を禁止しています。そして、静岡県熱海市では、陸から10km以上離れた海域で散骨を行うことや観光客の多い夏季は控えることなどをガイドラインで示しています。
それ以外にも散骨場所に関する細かな規定を設けている自治体がありますので、散骨を行いたい場所がある場合は、事前に確認をしておきましょう。また、海、山、空といった自然への散骨の場合、散骨は天候に左右される面もあります。
実際に、天候不良のため予定日が変更になり、参列者のスケジュールを再調整しなければならなかったというケースもあるようです。特に台風のシーズンは、延期になることが多いので、それ以外の時期で検討することをおすすめします。
また、ロケットや人工衛星を利用した葬送となると、そのチャンスは年に一度あるかないかというくらいになります。
海への散骨のメリットとデメリット
海への散骨は、死後は海へ還りたい、よく釣りをしていたあの場所に散骨して欲しい、といった故人の意思を尊重できる点が大きなメリットです。
種類としては、2つあります。
- 砂浜や岩場などから散骨する「沿岸散骨」
- 船で遠洋に出てから散骨する「海洋散骨」
遠洋で行う「海洋散骨」は、トラブルになりにくいという点からも人気があります。とはいえ、漁業場は避ける、航路の妨げにならないように、などの配慮は必要だということをしっかり認識しましょう。
散骨後の弔いについて、お墓の場合はお墓に向かって手を合わせますが、海の場合は、海そのものを見て故人を思い出すと捉える方もいれば、「どこに向かって手を合わせればいいの?」と心配される方もいます。海のこの地点で散骨したという証明書を発行する業者もあるので、散骨をした場所をしっかりと把握していたいという場合は、業者を選ぶときに、そういったサービスを取り扱っているかどうかを確認するとよいでしょう。
山への散骨のメリットとデメリット
山への散骨は、生前、登山が好きだった方の「死後は山へ還りたい」という思いを叶えられるのが大きなメリットです。船で海洋へ出られる海とは違い、登山は自分の足で登らなければなりません。
登山の経験が少ないご遺族が直接、故人の好きだった山へ登ることは難しい場合が多々あります。これまでは、山への散骨は遺族自らもしくは知人へ依頼するという形が多かったようですが、近年では、山への散骨の代行も委託できるようになりました。
散骨の対象となる山は、国有地や国有林で国定公園であることが前提で、対応可能な山かどうか調査を依頼することもできます。
- 人目につきやすい山頂
- 土日祝日を避ける
- 線香や供物を供えない
など、他の登山客や地元の方々への配慮は欠かせません。
空への散骨のメリットとデメリット
空への散骨方法として種類は2つあります。
- バルーンを使用する方法
- ロケットや人工衛星を使用する方法
遺灰を入れ、ヘリウムガスを注入した巨大バルーンを空へと送り出します。3時間程で地上から40~50kmの成層圏付近に到達し、気圧が変わり3~4倍に膨張し、一瞬のうちに宇宙に散骨されます。
ロケットや人工衛星を使用する宇宙葬は、遺灰を収めたカプセルをロケットなどに載せて宇宙空間に打ち上げます。地上から100kmを超えた宇宙空間までロケットを打ち上げますので、宇宙へ還りたいという意思を叶えるには最適です。
他にも、カプセルを月面まで届けるプランや、宇宙帆船(深宇宙探査機)に搭載していつまでも飛び続けるプランもあります。いずれのプランも、風や天候に左右されやすい点に注意が必要です。
自宅での散骨のメリットとデメリット
故人が最も落ち着けると思われる場所、遺族がいつでも故人に会える場所を求めて「自宅での散骨」にたどり着く方もいます。自宅の庭に墓石を建てるのは法律で禁止されていますので、お花畑を作り、そこにまくという方も。
自宅を将来的に売却する可能性がある場所への散骨は売却後にトラブルになる可能性があるのでおすすめしません。埼玉県秩父市のように、個人が自宅の庭に散骨をすることを条例で認めていない自治体もあります。
自宅の庭へ散骨する場合、隣人など周囲へ細やかな配慮の上、行いましょう。
公式散骨場や霊園散骨のメリットとデメリット
国立公園内への散骨や、霊園への散骨を行っているところがあります。
島根県の大山隠岐国立公園内にカズラ島という無人島があり、そこへ散骨することができます。カズラ島は自然公園法にて一切の建築物や構造物が認められない地域に指定されています。島の対岸には、お別れの儀や命日の法要などを執り行うことができる慰霊施設が完備されています。
千葉県市原市緑の丘霊園は、遺骨はすべて粉骨してから埋葬するという方法をとっています。一般的な骨壺に収納したままの埋葬とは異なり、数ヶ月から数年かけて土に還る自然葬に近い形のため、永代供養としてのニーズもあるようです。
どちらも気兼ねなく散骨できるメリットは大きいですが、場所が遠い方には難しいかもしれません。
樹木葬のメリットとデメリット
樹木葬は、霊園など墓所への埋葬となりますが、その特徴は墓石を建てる代わりに木を植えて墓標とすることです。自然へ還るというイメージから混同しがちですが、散骨とは異なります。
樹木に限らず草花などを墓標にできる霊園もあり、好きな植物の下で眠りたいという方にはぴったりです。また、樹木葬の多くは一定期間、管理者によって供養され、その後は合祀されます。
継承者不要の永代供養の形式が、お墓を継ぐ子孫がいない方や子供へのお墓の負担を配慮される方から選ばれています。樹木葬では遺骨を骨壺から取り出して土に還すのが一般的な供養法です。
遺骨を土中に直接、納骨することになりますので、後から遺骨を移動することはできませんので、その点は認識した上で実施するようにしましょう。また、交通の便がよくない墓地もあるので、後々まで遺族がお参りできるかどうか検討が必要です。
散骨にまつわる法律
現在、散骨について法律での明確な規定はありません。一定条件のもとで行われるものについては法律違反にあたらない、というものが一般的な見解です。
散骨に関わる法律は「刑法」と「墓地埋葬等による法律」です。
刑法190条では、「死体、遺骨……を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する」とされていますが、遺骨のままでなく粉骨し、葬送の目的として、相当の節度をもって行われる限り遺骨遺棄罪にはあたらず違法ともいえないと一般的に解釈されています。
墓地埋葬等による法律では、散骨に関する規定がなく、こちらも一般的に墓埋法とは関係ないと解釈されています。自治体によっては散骨に関する条例やガイドラインを設けているところがあります。各自治体は地域の事情を背景に、散骨に関する細かな規定を設けている場合がありますので、事前に確認しましょう。
実際に散骨を行う際、どういう点に気をつければいいでしょうか?
まず挙げられるのは、「周囲の方々へ迷惑をかけない」ということです。散骨に関する条例やガイドラインは、地元住民からの苦情やトラブルがきっかけで定められたり、地域のイメージを守るために設けられたりしています。
周囲の方々へ十分配慮した上で場所や方法を決めましょう。
- 当日も喪服を着ない
- お線香や副葬品はお供えしない
- 人目を避ける
など、細やかな心配りが必要です。
また、遺骨は必ず2mm以下に粉骨にしてから散骨しましょう。遺骨のまま撒くと死体(遺骨)遺棄罪に該当する可能性があります。
環境問題への配慮から、粉骨は水溶性など自然に還る素材の袋に入れるなど、自然に還らないものと一緒に散骨するのはやめましょう。
まとめ
散骨は、故人の思いを叶えることができる、費用が抑えられるなど、大きなメリットがあります。一方で、まだ散骨という方法に馴染みがない方も多くいらっしゃいます。
そして実際に行う際には、親族のみならず散骨場所の周囲や環境への心配りを忘れないようにしましょう。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |