散骨は、個人で行うよりも業者に依頼する場合が多いのではないでしょうか。業者に依頼をするときは契約を結ぶことになりますが、それらの見積書や契約書などを普段目にすることは、ほとんどありません。
散骨は、自分で生前予約をするケースや、お葬式の後から散骨することを決めるケースなど様々で、それぞれ契約のかたちも違います。そのような散骨の見積書・契約書の一般的な書面について、また葬儀全般や散骨における契約時の注意点なども併せてお伝えしたいと思います。
散骨の場合と違う?一般的な葬儀の契約書
そもそも契約とは「二人以上の当事者が合意することにより発生する権利と義務の関係」をいいます。通常は申し込みの意思表示と、承諾の意思表示というかたちで成立します。
家族や本人が、契約書(兼見積書)で業者に申し込みをした時点で、契約が成立したとみなされます。そして、契約の内容を条項として記すのが契約書で、契約の成立を証明する文書ともいえます。
ところで、散骨と一般的な葬儀では、契約書の書面において違いはあるのでしょうか?散骨する前にお葬式を行うケースもありますので、まずは一般的な葬儀の見積書・契約書について確認しておきましょう。
一般的な葬儀の費用と見積書
お葬式の喪主を務めた方のほとんどが、初めての経験でしょう。そして、以下のような声をよく耳にします。
- 「よくわからないまま式が終わってしまった」
- 「費用が予想以上にかかってしまった」
かけがえのない人を亡くした直後ですから、精神的な余裕がないのが普通です。それでも大切な人を送るためのお葬式。送る側も満足して終えられるように、手続きなどはできるだけ冷静に対応したいものです。
ところで、「葬儀の取引に関する実態調査報告書」が2017年3月に公正取引委員会から出されましたが、葬儀業界について気になることが2つ書かれていました。
- 葬儀業界には異業種からの参入が増えていること
- 大手と中小の二極化が進んでいて、下請け関係が生まれていること
そして、下請け側の業者が、請負先の様々な要請に応えざるを得ず、結果的に葬儀に関するトラブルを生む原因のひとつになっていると指摘されています。
そういった業界の状況もふまえて、葬儀の契約時には、不必要なサービスの押しつけがないかなどしっかりと契約内容を確認する必要があります。散骨業界でも異業種参入は見られますので、こういった問題に無関係ではないと考えられます。
それでは、一般的な葬儀の費用と見積書・契約書の見方を確認してみましょう。
お葬式にかかる費用は、次のように3つに大別されます。
葬儀を遂行するためにかかる費用で、主に祭壇や飾りなどの葬儀用具などがこれにあたります。
飲食接待費、返礼品、霊柩車代、火葬代、施設代などで、業者が一旦立て替える費用になります。
儀式を依頼した僧侶や神職、牧師などへの御礼で、お布施などがこれにあたります。金額が不明な場合は、檀家総代やお寺などに相談し、直接お支払いする場合が多いです。
以上①+②+③の合計が総費用となりますが、これは参列者の数や地方の慣習によって変わってきます。
また、生前予約などで事前に見積書をもらっている場合がありますが、未確定要素を含んだ見積書になりますので、当然ですがご逝去直後に出してもらう見積書とは金額が違ってきます。違いが生まれるのは、ご遺体安置の日数や、お葬式の参列者数の変動による場合が多いです。
いずれにしても契約の際には明細ひとつひとつの意味を確認しましょう。
現在、自ら葬儀を行わずに、葬儀業者を紹介するサービスを営む業者が増えています。そこで挙げられている見積書の見方と依頼方法についてご紹介します。
まず前提として、可能ならば「複数の業者に見積書を出してもらう」ようにしましょう。それらの見積書は葬儀社によってフォームが違い、費目も一見しただけではわかりにくいかもしれません。その中で次のような点に注意しましょう。
葬儀にかかる費用は、以下の3つに大別されます。
- ①葬儀一式費用
- ②飲食接待・火葬料などの実費費用
- ③寺院関係費用
しかし、葬儀社の見積書には、これらすべてが書かれているわけではありません。
葬儀社が直接的に提供する ①葬儀一式費用 だけの見積書が一般的です。つまり、②飲食接待などの実費費用は別途の見積り、③寺院関係費用は見積書に記載されない場合が多いようなので注意が必要ですね。
前もって「葬儀の場所」「会葬者の予定人数」などがわかるのであれば ②実費費用 に反映できますので、葬儀社に伝えておいてください。③寺院関係費用などで、葬儀社に僧侶を紹介してもらう場合は「紹介料」として見積書に入れてもらうことも可能ですのでお願いしてみましょう。
散骨の契約書について
一般的な葬儀の見積書・契約書についてまず確認しましたが、散骨の契約書は、どのようになっているのでしょうか?
一般的な葬儀の見積書とは書式がだいぶ異なり、申込書と同意書を兼ねる契約書となっている場合が多いようです。また、粉骨についての同意書を含むなど業者によってフォームや内容にかなり違いがあります。散骨の契約書によく見られるフォームを部分内容別に整理してみました。
散骨・粉骨について、業者の約款の下に依頼することに同意するか、家族・親族の同意は得られているか、散骨は一部か全部か、個人情報取得に関して該当目的の利用(アンケートなどを含む)に同意するかどうか、などがあります。
故人の氏名、申込者氏名、故人との関係(続柄)などの個人情報になります。
散骨日時、どこの海に散骨するかなどの詳しい位置情報、プラン、費用など、散骨に関する詳しい取り決めが書かれた部分です。
このように、散骨の契約書は一般的な葬儀の場合に比べてわかりやすい印象ですが、同意部分が必ずあるところが特徴です。散骨が様々な同意を必要としていることの表れでもありますね。
そして、業者に申込書、契約書などの書類を提出し、業者が受領した時点で契約が成立したととらえることができます。
散骨は、本人の希望で行うことが多いので、本人が生前予約をする場合が多いと思われます。生前予約は、費用の支払い方法により主に3種類ありますので、例としてご紹介します。
申込時に散骨施行主を決め、施行時に家族が支払います。必ずしも法的拘束力があるわけではないので、事前に十分な話し合いをして承諾を得る必要があり、最もシンプルな契約です。
申込時に業者に見積りの金額を支払い、施行時にはそれを散骨の費用に充てます。申込時に契約が成立しているので、ほぼ実行されますが、業者が倒産した場合には実現しない可能性もあります。
少額の掛け金を毎月支払い、もしもの時に散骨費用を保険金で支払うことになります。掛け金が少額で手ごろですが、年齢によっては加入できない、掛け金が高くなる場合があります。業者すべてがこちらを扱っているわけではないので、希望する場合は扱う業者を探しましょう。
散骨施行だけでなく、各種手続き、遺品整理などを一括して行うおひとり様用プランなどがあり、生前予約にも様々な選択肢が増えています。
生前予約において、身内がいらっしゃらない場合に用意されているのがおひとり様プラン。こういったプランでは「死後事務委任契約」がよく利用されていますが、一体どういうものなのか?というところからお伝えします。
委任者=本人がご自分の死後の諸手続きを、第三者(個人、法人)に委任する契約のことです。具体的には、行政等への諸届け事務、賃借建物明渡しに関する事務、医療費の支払いに関する事務など多岐に亘りますが、これに散骨の施行事務を含めることができるのです。
トラブル防止のために相応の費用はかかりますが、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家にこの契約書の作成を依頼することもできます。また、公正証書にてお願いする人と直接、死後事務委任契約を結ぶ方法もあります。
- まず、近くの公証役場に予約のうえ、委任者(本人)、受任者(お願いされる人)それぞれが印鑑登録証明書などの必要書類を持参し提出。
- 約1週間後、作成された死後事務委任契約公証証書を確認し、内容に納得すれば署名捺印をして謄本を受け取り、正本は受任者に、原本は公証役場に原則20年間保管されます。
何より執行力、証拠力のある方法ですので、死後事務委任契約も選択肢のひとつとしてご検討ください。
散骨と契約書 トラブルと対策
メールで申し込みをする場合が多い散骨ですが、見積書や契約書をもらう際にトラブルにならないような対策として次のようなことが考えられます。
- 複数の業者から見積書をもらう
- メールや電話でのやり取りだけでなく、必ず書面で見積書をもらう
- 追加料金の有無を確認し、費用の明確な説明をしてもらう
一般的な葬儀の場合と同様に「大手だから安心」というわけではなく、これらのやり取りの中で誠実な対応をしてもらえるかどうかが大切なポイントになります。ところで、散骨を含めて葬儀の契約に関するトラブルは、年間どれくらいあるのでしょうか?
国民生活センターには消費者からの相談が多く寄せられますが「墓・葬儀サービスに関する相談」についての統計と報告書が時々公表されています。
- 増加する葬儀サービスのトラブル(2006年6月)
- 大切な葬儀で料金トラブル発生!-後悔しない葬儀にするために知っておきたいこと-(2015年12月) など
これらの統計報告が出される背景には、相談件数の増加があります。2015年頃の相談件数は年間700件以上もあり、これらを問題視する報道も見られました。最近4年間(2016~2018年度、2019は12月末現在)は、若干減少傾向にあるものの劇的には減っていないようです。
センターに寄せられた相談の中に「散骨」に関することがどれくらい含まれているかは不明ですが、相談内容には料金や契約に関することが多いようです。具体的な内容について見ていきましょう。
国民生活センターへの葬儀に関する相談内容
- 家族葬希望なのに一般葬をすすめられるなど、希望と異なる契約の強要があった
- 慌てて葬儀社を選んで後悔した
- 低価格の葬儀社を選んだため、故人への保全処理に不満が残り、後悔することとなった
- 合意していない追加サービスの料金を請求された など
契約時における不十分な説明、消費者側の確認不足などに起因するトラブルが起こっている様子がうかがえます。
一方、お墓に関する相談では「地震で倒壊した墓石の修理をお寺指定以外の業者に依頼したいが、お寺が認めてくれない」「墓じまいを希望したら高額な墓石撤去料と永代供養料を請求された」などの事例がありました。因みにお墓に関する相談は、毎年、葬儀サービスの相談件数の倍近くもあり、様々な方法を散骨と併せて行おうと考えている方には気になるところですよね。
最近では、墓じまいや散骨のサポートをトータルで請け負う行政書士などの専門家もいますので、散骨をトータルで考えるというかたは専門家に依頼するのもトラブル対策のひとつとなります。
トラブル対策には行政サポートの利用も
国民生活センターによると、トラブル対策のアドバイスとして以下のことが挙げられています。
- もしもの時のための情報収集をしておくこと
- 葬儀の打ち合わせには複数で参加し見積書をよく確認すること
- トラブルになった場合は、消費生活センターに相談すること など
これらに加え、見積書を請求すれば必ず応じる葬儀会社、丁寧な説明をしてくれる葬儀会社を選ぶことが大切と繰り返し助言がされています。「契約以前にまず業者選びが大切であるということ」また「対応が誠実な業者かどうかが重要な判断ポイントであるということ」がわかります。
現在、葬儀業界で一番大きな業界団体になっているのは全日本葬儀連盟ですが、ガイドラインや業者選びのポイント解説動画などを作成してトラブル防止に力を入れています。海洋散骨業者の業界団体においても、ガイドラインが作成されています。
業者選びや契約の際に大変参考になりますので、一度ご覧になってみてください。また、最近、地方公共団体が終活支援事業に力を入れるようになってきていますので、各市町村のHPも確認してみてください。
終活サポートとして、相談を受け付け、生前予約、散骨、墓じまいなどへ結びつけてくれているところもあります。地方公共団体が直営する墓地もあり、無縁墓対策としてもこのような取り組みは今後増えていくのではないでしょうか。そして、もしトラブルに巻き込まれたら、消費者センターに相談をしましょう。
まとめ
葬儀と散骨の契約書概要と、契約の際の注意点などをお伝えしましたが、いかがでしたか?散骨の契約書は申込書と同意書を兼ねている場合が多く、同意事項の細かさが特徴といえます。
そのような同意事項のためにも、また、時間的制約の中で契約しなければならない場合も想定して、日頃から家族とよく話し合い、情報を集めておくことが大切です。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |