遺骨を意図的に遺棄する事件が起きています。「お墓を建てる資金がない」「継承者がいない」等の理由で、お墓を建てることや墓じまいを考える人がいます。
結論が出ないまま、家族やご先祖様のご遺骨をまるで物のように捨ててしまっては、とても悲しいことです。最近では「自然葬」というものが注目されています。
今回は散骨の特徴をご紹介し、法整備はいまだ整ってはいないものの散骨には自治体の条例やルール等があることをお伝えします。
私有地での遺骨に関するトラブルとは?
故人の遺骨は本来大切にされなければならないものですが、近年、他人の私有地に勝手に捨ててしまう事件が起こっています。
- 2015年、68才の元夫が妻の遺骨を東京・練馬区のスーパーのトイレに捨ててしまい、書類送検されました。
- 2019年、53才の男が実父の遺骨を区役所で引き取った後に、東京駅のトイレに骨壺ごと放置し、逮捕されました。
一方、落とし物として警察に届けられる遺骨も多くあり、その8割は落とし主が見つかっていないそうです。落とし主不明の遺骨は、警察から依頼された寺院が無縁仏として供養しています。
現代のお墓事情とは?
現代では、お墓を建てるのに145~200万円くらいかかるといわれています。また、お寺や霊園に対して、お墓の維持や管理に管理料というものが別途かかります。
お墓を持つということは、決して安い買い物ではありません。また、ずっと、お墓の管理をする誰かが足を運ぶ費用や維持する費用が必要です。
近年は、墓地や霊園に管理料を払わない方も増加しているといわれています。
遺骨の取扱いに関する法律があります
遺骨が入った骨壺を放置し置き去りにした場合、置き去りにした人が分かると、死体を遺棄したと同じことと考えられるため「刑法第190条」の「死体損壊・遺棄罪」に問われます。有罪となれば、3年以下の懲役刑に処せられます。
遺骨を引き取る際には、遺族のうち誰か一人が決定権を持ちます。これは、遺骨が「祭祀財産」とみなされているからです。
そして祭祀財産の所有権は、祭祀継承者であるということが通説になっています。ちなみに過去の最高裁では、ご遺骨は祭祀財産であり、祭祀継承者に帰属するという判決が出ています。
亡くなってから遺骨になるまでの流れ
家族や近しい人が他界、いわゆるご臨終となると、故人を棺に納める「納棺」が行われます。ご臨終からお葬式までの期間は、短くて3日、長くて1週間程度で、火葬場の空き状況や遺族の希望をもとに火葬とお葬式の日取りを決めていきます。
火葬場に空きがあったとしても、死亡してから24時間経過しないと火葬や埋葬ができないと法律によって定められています。火葬場の空き状況を優先し、火葬時間を元に逆算して儀式の日時を決めていきましょう。
遺骨をお寺などで管理する方法
仏式では、納骨は寺院などで納骨式を行います。四十九日忌法要に合わせて納骨するのが一般的で、四十九日法要後、墓前で僧侶による納骨式を行います。
新しくお墓を建てるなど四十九日に間に合わない場合は、新盆や一周忌法要などを目安に納骨を済ませることも可能です。新しい墓に納骨する場合には、納骨と同時に僧侶によって、仏壇に魂を入れてもらう「開眼法要」も行います。
納骨後は、ご位牌だけを持ち帰りご仏壇に置きます。
遺骨をご自宅で管理する方法
遺骨の管理については「墓地・埋葬に関する法律」というものがあり、「遺骨を埋葬・納骨する場合は、市区町村が認めた墓地や納骨堂でなければならない」と決められています。こちらは、遺骨を必ずそこに入れなくてはいけないというものではなく、故人を弔うために祭祀承継者が遺骨を保有する自体は違法には当たりません。
最近では、大きな仏壇は買わずに自宅にご遺骨を置いて、供養するという「手元供養」が都会を中心にはやっていますが、違法にはなりません。
バーチャル空間で個人を偲ぶ方法
お墓のない故人のデータをインターネット上に登録できるサービスがあります。
散骨や合祀墓などで遺骨がない方や手元にない方が主に利用するもので、故人の記念碑をインターネット上に残すことにより、いつでも誰でもその故人を偲べます。デジタルとはいえ、場所がインターネット上にお墓があるということですので、登録料や各データの掲載料、年会費といった経費を支払う必要があります。
契約期間は、20年や30年ほどに区切って行われる場合が多く、永代供養つきの個人墓などのような仕組みと似ています。
遺骨を自然に還す方法も選択肢に
自然葬とは、葬儀の後に行う「埋葬」の種類の一つです。自然葬が選ばれる背景には、自然回帰を願う人が増えているという理由があるといわれます。
遺骨を細かく砕いて粉末にしたものを海にまくなどの方法で「自然と一体化できる」のです。そんな自然葬にはいくつかの種類があり、多くの業者が参入しています。
自然葬の特徴と注意点とは?
自然葬は故人の思いを叶えるためさまざまなバリエーションがあります。
- 樹木葬
- 海洋散骨
- 空中葬
- 宇宙葬 など
けれども、実際に行う場合は、周りの環境や住民の方々に対する配慮が必要ですし、ルールがあります。
また、後々、親族の人たちのお墓参りが難しくなるなどの問題が生じる可能性もあります。希望する場合は、業者(専門家)のアドバイスなどを聞いてから行うことをおすすめします。
散骨が注目されています
上述したように現代は、核家族化や少子化などにより、お墓の継承が難しくなっています。一方で、墓じまいもする方も増えています。
今までは、遠方にある実家の先祖代々のお墓を現住所近くに改葬するケースが多かったのですが、残された家族のことを考えて「もうお墓は作らない」と決めてしまう方もいます。
墓じまいをする際は、お墓に納められているご遺骨を勝手に取り出して納骨したり廃棄したりすることは法律の下でできませんが、行政手続きをすることで実現できます。その遺骨の行き先は「永代供養」「手元供養」「散骨」などの供養になることが一般的です。
有名なあの方も散骨でした
散骨という葬送方法は、現代になって始まったものではありません。昔から行われているものであり、有名な方たちも自ら散骨を選んで、家族もその遺志を尊重して選択する場合が増えています。
- 淳和天皇
- 天本英世
- 荒井注
- 石原裕次郎
- 沢村貞子
- 新藤兼人
- 梨元勝
- hide(元XJAPANメンバー)
- 深浦加奈子
- 藤沢秀行
- 立川談志
- 藤圭子
- 中島らも
- 横山やすし
散骨に対する法的な解釈や注意点があります
散骨に関して、法律上ではグレーで推移していますが、抵触しそうな事案を2つ紹介します。
「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。」
「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行ってはいけない」
刑法に対する法務省の見解としては、遺体遺棄の可能性に対して、「葬送を目的として節度を持って行う限り、遺体遺棄には当たらない」という姿勢を示しています。
墓埋法に対する厚生省の見解では、墓地以外への埋葬禁止の抵触に対して「墓埋法はもともと土葬を問題としており、遺灰を海や山にまくといった葬法は想定していません。」そのため、「この法律は自然葬を禁ずる規定ではない」という見解です。
遺骨は細かくします
散骨する前の準備としては、遺骨の1片が2ミリメートル以下になるまで細かくすることが必要です。散骨業者の団体(のガイドライン)や業者が推奨しているものとして理解していただければよいと思います。
ご自身で遺骨を細かくするキットが販売されていますが、心理的な負担が大きいため、業者に任せたほうが賢明でしょう。
決められた場所にしますが地中に埋めません
埋葬等を行う場合の手続きが定められている墓埋法第4条には、「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行ってはならない」とあります。
墓地以外の区域(私有地など)に遺骨を埋めることは法律違反になってしまうことです。墓地以外の区域には、粉末状にした遺骨をまくことがポイントです。
人目につかないようにひっそりと行います
散骨できる場所を選んだとして、どうやって散骨するかが重要です。
例えば、海に散骨する場合、海水浴場など、人目につくところで散骨すると、周りにいる方に不快な思いをさせてしまいます。
また、散骨する際の服装も大事です。黒の喪服を着て船や飛行機に乗るなら、周りの人たちは違和感を覚えるかもしれません。そのことで風評被害が起こり周辺の方に迷惑をかけてしまう可能性もありますので、充分に配慮しましょう。
親戚の同意を得てトラブル防止をしましょう
散骨は一度行ってしまうと、もう元に戻せません。「何をより所にすればいいのか?」と、高齢の親戚の方には、お墓にこだわる方も多く見られます。散骨後の供養のやり方も一緒に考えて、みんなで弔いの方向性を決めましょう。
一方、祭祀継承者がいない場合などは、「仕方がない」という感じですんなり話が通ることもあるようです。
散骨代行のサービスも利用価値があります
散骨を経験されている方は少なく、わからないことも多いことでしょう。万が一、他人の私有地にご遺骨をまいてしまったなら、トラブルに発展することも考えられます。
また、遠方や諸事情で散骨場所に行けない場合、代行サービスを利用する方法があります。代行サービスはご家族に代わってご遺骨を粉骨したり、海や宇宙などへ希望する場所に散骨したりするサービスです。
費用は散骨する場所によりますが、数万円から数百万円の間と幅広いです。お墓を建てる費用は約200万円前後しますので、費用の面から考えると少なく弔うことができます。
悪徳業者には注意しましょう
悪徳な業者により、ご遺族から預かったご遺骨をゴミ捨て場に捨ててしまったり、山道や雑木林などの私有地に勝手に不法投棄したりするケースも発生しています。そういった悲しいことにならないよう、優良な散骨業者を選びましょう。
- 個人事業ではなく、株式会社やNPO法人など法人を選ぶこと
- 現金以外の決済手段が用意されていること
- 実際に散骨していることが分かること
- ホームページ(webサイト)などがしっかりしていること
- 特定商取引法に基づく表記(法定記載)があること
- 連絡先が携帯電話やフリーメールだけでないこと
- 粉骨・散骨の専門業者を選ぶこと
条例で私有地の散骨を制限している自治体があります
国による法整備が整ってない中でも、日々散骨は行われています。多くの業者が参入している昨今、各地でトラブルも実際に起こっています。
こうした流れを受けて自治体などでは、条例などを作成し、散骨を規制する動きがあります。
北海道長沼町の場合
2003年、札幌市のNPO法人が樹木葬墓地を作ることを新聞で突然、発表しました。
町民には寝耳に水でしたが、違法ではなかったため、広大な山林のどこかで散骨が行われてしまいました。飲用水への懸念や農作物に対する風評被害などの理由で、周辺住民からの強い反対運動が起こり、2005年に散骨禁止条例が可決されました。
静岡県熱海市の場合
熱海市は有名な観光地です。「無秩序な散骨が行われることによって風評被害が起こり、市のブランドイメージを損なう可能性がある」として、市は海洋散骨業者に対して、2015年に「熱海市散骨事業ガイドライン」を作成しました。
熱海市内から約10㎞離れた海域で行うことなどと具体的な文言が盛り込まれています。
その他の自治体の場合
- 北海道
- 長野県
- 神奈川県
- 埼玉県
- 静岡県 など
- 北海道七飯町、岩見沢市
- 長野県諏訪市
- 埼玉県秩父市、本庄市
- 神奈川県湯河原町
- 静岡県御殿場市、伊東市、三島市
- 東京都 など
主たる対象者は散骨業者ですが、個人で散骨を行う場合も注意が必要です。
散骨ができる場所のまとめ
- 山(自身の所有)
- 業者が散骨場所として許可を得ている場所
- 海(沖合で漁場から離れている場所)
- 山(国有地)
- 自身が所有する土地(庭を含む)
※一定の条件を満たしていれば、散骨が可能です。
- 山(他人の私有地)
- 河川
- 他人の土地(庭も含む)
- 湖
- 観光地や漁場
- 海水浴
- 海(沿岸・漁場)
まとめ
散骨は、私有地に勝手に散骨しないなど、条例やガイドラインに則れば自由に行うことができます。自分で行わない場合は業者をしっかりと選び、社会問題を起こさないことが大切です。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |