「終活」という言葉をよく耳にするようになりました。実際に終活を始める人も増えているようです。

終活とひと口に言っても様々な活動があり、その中でも「住まいの終活」は老後生活への影響が大きく、長期的な視点が必要となります。

住まいに関して、持ち家か賃貸かの選択は人生の様々な節目で迷うところですが、終活においても同様でしょう。

ここでは、残りの人生を賃貸でと考える人へ、その進め方や注意点などをお伝えしたいと思います。

住まいの終活 賃貸か持ち家か

終活とは、自分の死と向き合い、残りの人生を自分らしく生きるために、様々な準備をする活動のことです。

具体的な例を挙げると、「人間関係の整理」「身辺・財産整理」「介護・延命治療の希望」「お葬式・お墓の形式」を決めて伝えておくことなどです。

何を行うかは人によって様々ですが、中でも住宅に関すること「住まいの終活」は残りの人生に大きな影響を与えるという意味においても重要な終活と言えるでしょう。

それは、住宅費の大きな負担や、家の購入・売却にかかる費用面の大きさだけでなく、住まいはまさしく「生きる場所」だからです。

ひと昔前は多くの人がマイホームに憧れ、「家は一生に一度の大きな買い物」と一般的に言われてきました。現在は人々の暮らし方が変わり、家に対する価値観も多様化しています。賃貸から賃貸へ住み替え続ける人や、投資を目的にマンションを購入する人もいます。

住まいの終活において、適当なタイミングで「家を購入する」「賃貸暮らしを続ける」「持ち家を売却して賃貸に住み替える」など、様々なケースが考えられるでしょう。

家に対する価値観は人によって異なるので、賃貸か持ち家かという問いには絶対的な正解はありません。それでもどのような選択が幸せなのかを住まいの終活の中で考えていくことは、よりよい老後を送るためにとても大切です。

家族と価値観の共有を図りながら、資金計画を含めたライフプランを立てることから住まいの終活を始めましょう。

住まいの選択パターン

住まいの選択パターン
住まいの終活でどのような選択があるのかをまず整理しましょう。

一般的には次のようなパターンが考えられます。

現在、持ち家に住んでいる場合
  • リフォームなどして住み続ける
  • 建て替えるか二世帯住宅にする、賃貸併用住宅にして一部を貸す
  • 持ち家は貸し出して、別に住む家を賃貸か購入で確保する
  • 持ち家を売却し、その後は賃貸、地方、海外、高齢者向け住宅などへ住み替える
現在、賃貸に住んでいる場合
  • 住み続ける
  • 持ち家、賃貸、地方、海外、高齢者向け住宅などへ住み替える

いずれのルートを選ぶにしても、ついて回るのが資金の問題になります。

持ち家の購入あるいは建て替え、施設への入居一時金などにはまとまった資金が必要です。住み続けると税金やリフォーム費用などがかかります。賃貸に住み替えて持ち家を貸し、家賃収入を得る方法も考えられます。

一方で高齢になればなるほど「住み替え」には、気力、体力も必要となるでしょう。住まいの終活は、資金面だけでなく総合的に考えることが大切です。

高齢者の持ち家率は?

高齢者の住まいの現況を、持ち家率で見てみましょう。

令和2年版の高齢社会白書の中の「住居状況」で持ち家率を確認することができます。

全世帯における持ち家率は61.2%です。そのうち高齢者(65歳以上)のいる世帯は82.1%で、高齢者のいる全世帯では持ち家率が高くなっています。

ただ、高齢者のいる世帯の持ち家率を区分別で見ると、「子ども等と住む世帯」の持ち家率は88.9%、「夫婦のみの世帯」が87.4%であるのに対し、「単身世帯」は66.2%と低くなっているのです。

これにより「高齢で一人暮らしになると、賃貸に住む確率が上がる」と読み取ることができるでしょう。また、介護関連の調査においても、年齢が高くなるほど高齢者世帯の持ち家率が低下することが指摘されています。

終活の進め方 賃貸の場合

終活の進め方 賃貸の場合
終活はまず「過去の振り返り」から始めましょう。

やり残したことはないかを点検し、同居の家族がいる場合は話し合いを重ねながら、住まいの終活を進めます。

住まいの終活で賃貸を選択する場合、具体的には次のような流れで行ってみてください。

  1. 賃貸に住み続けるのか、ほかの賃貸へ住み替えるのか。どちらにしても誰と暮らすのかなどを具体的にイメージします。
  2. もし住み続ける場合、現在の家賃をずっと払い続けられるかなど現状を把握しましょう。
  3. 今後の「イベント」の予想を時期を含め、具体的に書き出します。
    ※イベントとは、家や車の購入、リフォーム、引越し、海外旅行などの人生で大きな行事のことです。
  4. それぞれのイベントについて、準備や実現ができない場合は第二案などを考えておきます。
イベントが実現できない場合とは?
例えば、今の賃貸に住み続ける予定でいても、健康などの事情から他の賃貸への引越しを迫られる場合などです。
この場合の第二案・第三案は、「子どもの家の近くの賃貸へ引越す」または「高齢者施設に入所する」などが考えられます。

住まいの終活において、健康や環境の変化を予想するのは難しい面もあるでしょう。その変化に対してどのような価値観を持って応じていくのか、人によって異なる部分になるのかと思います。

賃貸の場合のライフプランニング

賃貸の場合のライフプランニング
賃貸に限らずライフプランニングは、現状を把握することから始めます。

そして、様々な要素を考慮して導き出した計画を基に、キャッシュフロー表を作成しましょう。

現状把握すべき内容
  • 1ヶ月の支出と収入、1年間の収支を把握する。
  • 年金をいつからもらうか、何歳まで働くかなどの最適解を見つける。
  • 車や不動産、ローンなど現在の資産の状況を把握する。
キャッシュフロー表

キャッシュフロー表
経過年数ごとに数字などを記載して表を完成させていきましょう。

表の横軸

横軸は経過年数とします。上記の表のように世帯主と配偶者の年齢を記載します。今回は60歳から2年間隔にしています。

表の縦軸

縦軸は貯蓄残高の金額になります。上記の表の赤色の折れ線グラフのように記載していきます。

その他の項目は以下になります。

  • 状況欄:ライフイベントの内容
  • 収入合計(オレンジ):夫の収入と年金、妻の収入と年金、その他の収入
  • 支出合計(グレー):基本生活費、住居関連費、車両費、教育費、保険料、その他の支出、一時的な支出
  • 年間収支(収入合計-支出合計)

賃貸の場合は、支出の住居関連費に「更新料」などを含め金額を記入します。また、持ち家の場合は「固定資産税や住宅ローン」などの金額を記入します。

いずれにしても多くの家庭では、住居関連費の支出に占める割合は高いと考えられます。

老後資金の不足が予想される場合に、住居関連費の見直しを推奨されることがあります。賃貸の場合、より安い家賃の物件への引越しで、老後資金の節約を勧められるといったケースです。

以上のように現状把握からキャッシュフロー表を作成して、住まいの終活における判断材料として役立ててください。

キャッシュフロー表の作成が難しい人は、フィナンシャルプランナーなどの専門家に相談することも一案です。

ただし、人生には思わぬことが起こります。そんなときは計画を柔軟に見直しましょう。

賃貸のメリット

賃貸のメリット
国土交通省の住宅経済関連データによると、賃貸から賃貸への住み替えを希望する人、持ち家から賃貸への住み替えを希望する人は、10年前より増えているようです。

その背景には、次のような賃貸のメリットが関係していると考えられます。

住宅ローンの不安がない

いつの時代でも住宅ローンを組むには大きな覚悟が必要です。環境の変化で残念ながら住宅ローンを払えなくなるケースもあります。賃貸ではこのようなリスクを負うことはありません。

固定資産税などの税金を払う必要がない

固定資産税は持ち家に住む限り、毎年かかってくる税金です。1月1日時点の登記情報を基に納付金額が計算され、資産価値のある家ほど高額になります。建物は経年で評価額が下がるのが普通ですが、それでも決して少なくない負担です。

住み替えが比較的自由

賃貸への引越しは、地域やタイミングなど比較的自由に行うことができます。ただし、持ち家から賃貸への住み替えについては、持ち家の売買にかかる手続き等で簡単には行かない場合もあります。

ライフスタイルの変化に対応しやすい。

家族の都合などで住み替えが必要になったときも、賃貸なら引越しが比較的容易です。予期せぬ環境の変化にも対応しやすいのが賃貸のメリットでしょう。

賃貸のデメリット

賃貸のデメリット

家賃を払い続けること

老後資金の不足が予想され、家賃の安い賃貸へ住み替えた場合でも家賃の負担は続きます。2年毎の更新料の支払いも必要です。

例えば、老後30年として家賃5万円の場合の費用を単純に計算してみましょう。

家賃5万円×12ヶ月×30年+5万円×2ヶ月分(更新料相場は2年毎、1~2ヶ月分)×15年=3,300万円となります。

これだけの金額を支払い続けても自分の資産には一切なりません。ただし、持ち家の方が得かどうかは即断できず、相続などを含め総合的な判断が必要となります。

貸主の都合で退去を求められるリスクがあること

「借地借家法」では、退去の通知は更新日の6ヶ月~1年前までと定められていますが、特に高齢者の場合、次の入居先がすぐに見つからないというケースがあります。

さらに近所の入れ替わりが頻繁な賃貸では、近所付き合いが希薄になる傾向にあり、人によってはそれもデメリットになるでしょう。

住み替え先はどこがいい?おすすめの賃貸

主に高齢になってから賃貸への住み替えを計画する人へ、サービス重視、費用重視でそれぞれおすすめの賃貸住宅をご紹介します。

①サービス付き高齢者向け住宅

バリアフリー仕様など高齢者向けに設計された賃貸住宅です。原則として60歳以上で、介護を必要としない人を対象としています。

物件により費用やサービスは異なりますが、主なサービスは安否確認、緊急対応、生活相談などです。介護サービスなどが必要になった場合は、外部の事業者を利用することもできます。

家賃のほかに敷金、管理費がかかりますが、更新料、権利金などの負担はありません。

高齢者の居住の安定確保に関する法律「高齢者住まい法」(平成23年改正)の規定を受けています。
※食事・介護の提供/家事・健康管理の供与のどれか1つでも実施されている場合は「有料老人ホーム」という扱いになります。

②家賃が魅力の団地

現在の家賃を支払い続けることに不安がある人におすすめなのが、「団地」への住み替えです。ひと口に「団地」と言っても経営主体などにより様々な違いがあります。

都道府県や市町村が運営する公営団地

一定以下の収入であること、基本的に家族で入居することなどの条件があります。家賃は収入により決まり、入居の募集時期があって人気のあるところでは抽選になることが多いようです。

公社やUR機構が運営する団地

随時募集で空き室があれば先着順で入居可能です。こちらは一定基準以上の収入があることが入居条件になります。収入が基準に満たなくても、貯蓄額で判断される場合もあります。

公営団地より家賃は高いですが、民営よりは若干費用を抑えられますし、立地条件のいい物件が多いです。

賃貸の種類

賃貸の種類
団地の説明でも触れましたが、賃貸住宅は主に次の4種類に区分されています。

①公営

都道府県・市区町村が所有または管理する賃貸住宅で、④給与住宅でないもの。
「県営住宅」「市営住宅」などと呼ばれています。

②都市再生機構(UR)、公社

都市再生機構(UR)または都道府県・市区町村の住宅供給公社・住宅協会・開発公社などが所有または管理する賃貸住宅です。
「UR 賃貸住宅」「公社住宅」などと呼ばれています。

③民営

①、②、④以外で、民間が所有し経営する賃貸住宅です。

④給与住宅

勤務先の会社・官公庁・団体などが所有または管理する賃貸住宅。
職務の都合上または給与の一部として居住している住宅で「社宅」「公務員住宅」などと呼ばれています。

ちなみに、住宅の定義は、一戸建ての住宅やアパートのように完全に区分された建物の一部で、一つの世帯が独立して家庭生活を営むことができるように建築または改築されたものと、国の統計事業等で定められています。

賃貸で一人暮らしの場合に注意すること

賃貸で一人暮らしの場合に注意すること
どのような家に住むとしても、一人暮らしの人にとって大切なのは、もしものときの準備をしておくことです。

一人暮らしの人が亡くなったときに賃貸契約はどうなるかと言うと、貸主と相続人との合意の上、賃貸契約が解約されるのが一般的です。

そして、契約解除後は短期間で片付ける必要があります。賃貸で一人暮らしになった場合は、日頃から荷物を減らすことを心がけ、賃貸契約書はわかりやすい場所に保管しておきましょう。

現在はエンディングノートなどを準備する人も多くなりました。しかし、一人暮らしで親戚や頼れる知人が近くにいない場合には、エンディングノートの発見が遅れる場合があります。

賃貸に限らないことですが、こういったことを防ぐためにも一人暮らしの人には、代行サービスや自治体などの「終活登録」サービスの利用をおすすめします。

自治体で実際に行われている終活登録サービスの具体的な内容は以下になります。

  • 本人情報
  • 緊急連絡先
  • 健康情報
  • 臓器提供意思
  • 事前指示書の保管場所・預け先
  • エンディングノートや遺言書(開示対象者情報も)の保管場所・預け先
  • 葬儀や遺品整理の生前契約先
  • お墓の所在地
  • 自由登録事項 など

開示方法などの詳細な取り決めもあるので安心です。相続人や片付けをお願いする人に伝え承諾を得て、情報を登録しておきましょう。

苦慮する自治体

公営住宅などで一人暮らしの人が亡くなり、住まいの片付けや遺品の保管について、対応に苦慮する自治体が増えています。

法令により遺体は埋葬又は火葬をしなければならないことになっていますが、身寄りの探索、遺品の管理、それに伴う費用の支弁と回収など多くの事務が発生し、自治体の大きな負担になっているとのことです。

まとめ

1.持ち家か賃貸かの選択は、資金、健康、環境などで総合的に判断する。
2.住まいの終活は老後生活像を描いて、ライフプラン、キャッシュフロー表を作成して進める。
3.住み替え先はサービス重視ならサービス付き高齢者向け住宅、費用重視なら団地がおすすめ。
4.賃貸で一人暮らしする場合は、生前整理が重要で賃貸契約書はわかりやすい場所に保管する。
5.死後の手配が行き届くように、代行サービスや自治体の終活登録サービスを利用するのも一案。

賃貸における住まいの終活について、注意点などをお伝えしました。「残りの人生は賃貸で」と考えている人の参考になりましたら幸いです。

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未来のお思託編集部
散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。