海洋散骨は節度を守れば基本的に許可不要
海洋散骨に限らず、散骨は基本的に許可を得なくとも行うことができます。それは散骨のことをはっきりと文章に表した法律が存在しないからです。
しかし、それは場所によって異なります。条例を制定している自治体や海外に行けば法律がある国や地域もあるからです。また、墓じまいに伴う散骨を検討している場合は、別途申請が必要になる状況も考えられます。
この記事では、海洋散骨に関する許可や申請についてと「墓埋法」などの気になる法律や粉骨をはじめとするマナーなどのポイント3つ紹介していきます。
許可や申請を知る前に海洋散骨について確認しよう
- 「自分が亡くなった後に、思い出の海に散骨して欲しい」という思いでいる終活の方
- 「お墓の維持は大変で、今後は難しくなってしまいそうだから墓じまいをしたい」と考えている方
さまざまな事情があって散骨を検討していることでしょう。
申請や許可を考える前に、まずは海洋散骨について基本的な知識のおさらいをおすすめいたします。
散骨の定義は、『遺骨を海や山河にまく葬礼』(三省堂 大辞林第三版より引用)です。つまり、海洋散骨は遺骨を海にまくことで亡くなった方を弔う葬礼ということになります。
海洋以外に「山」や「宇宙」など散骨する場所はさまざまです。その中でも、生命誕生の場所である海洋での散骨は故人を自然に還していくような感覚になる葬礼です。
生前から希望する方がいることも頷けます。
海洋散骨は、散骨のできる場所まで船で行くのが一般的です。ここでは、乗船するパターン別に紹介します。
個別でチャーターして乗船するか散骨業者に依頼して、親族のみの船を出してもらうパターンです。自由に船内を使い、沖までの時間を過ごすことができますが、費用はかかります。
散骨を希望する複数の家族と共に、散骨場所まで船で行きます。
親族は乗船せず、業者による代行散骨です。費用は抑えることができます。
海洋散骨が基本的に許可不要なのはなぜ?
海洋散骨をするにあたり、基本的には許可を得る必要がないのはなぜなのでしょうか?
散骨は遺骨をまく行為です。法律上の規定がないことを不思議に思う方が多いかもしれません。
散骨の届け出や許可の制度について、東京都保健福祉局は『散骨は「墓地、埋葬等に関する法律」に規定されていない行為であるため、法による手続きはありません』と公式サイトに記載しています。ここからは、散骨をめぐる法律について紹介します。
葬儀・葬式・埋葬について制定された法律が、墓地、埋葬等に関する法律「墓地埋葬法」です。ただ、散骨に関する文章どころか、散骨という単語すら記載はありません。
法律制定時に散骨という葬礼方法が想定されていなかったのでしょう。墓地埋葬法には「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない」とあります。
散骨は遺骨をまく葬送方法のため、埋葬ではありません。そのため「墓地埋葬法には抵触していない」と解釈できるのです。
刑法190条では、『死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する』とされています。物理的に遺骨を壊して遺棄すると、遺骨損壊罪にあたるのです。
後述しますが、散骨を行う際は遺骨をパウダー状になるまで細かく粉砕しておく(粉骨)必要があります。「粉骨は物理的な損壊になってしまうのではないか?」という疑問が生まれますが、これは問題ありません。
粉骨は遺骨を軽んじて廃棄することが目的ではないため、損壊に該当しないと捉えられているのです。遺骨をそのままの形でまこうとすれば、遺棄していると見なされる可能性があります。刑法190条も、墓地埋葬法と同様に散骨に関する明確な記載はありません。
以上のことから、「散骨は合法でも違法でもない」といえるのです。
散骨を葬送方法として選ぶ方が増え、専門業者が登場するなど散骨は一般的に知られるようになってきました。合法でも違法でもないと省庁はどのような経緯で解釈したのでしょうか?
1991年に散骨を行った団体が当時の法務省に問い合わせたところ、刑法190条の解釈について回答があったそうです。それは『刑法第190条の規定は社会的習俗としての宗教的感情などを保護するのが目的だから、葬送のための祭祀で節度をもって行われる限り違法ではない』というものです。
つまり、故人を想って行い、節度を守れば散骨は法に抵触しません。ですが、方法や場所を考えなければ他者の気分を損なってしまったり、最悪の場合は通報されたりすることがあるかもしれません。
民法や刑法を担当する法務省の見解で「違法ではない」とされているため、先の回答を根拠として散骨を合法と謳う業者も多くありますが、あくまでも「非公式な見解」です。
1991年に法務省の見解が報道されてからも、散骨に際して許可が必要でないまま現在に至っています。
1998年6月、当時の厚生省(現在の厚生労働省)で『これからの墓地等の在り方を考える懇談会』が開かれ、散骨に関しても議題に上りました。トラブルが起きた事例があるため、散骨の方向性が議論されて法整備が必要という認識の下、散骨についての墓地埋葬法の立場も確認しておきたいとされました。
厚生労働省が管轄する墓地埋葬法は、あくまでも衛生法規で埋葬でも埋蔵でもない散骨に関しては解釈を拡大して規制することは難しいようです。本会は報告書を作成して閉会しました。
省庁は散骨をめぐって問題が起きていることは把握しているものの、法整備をし散骨に伴う手続きを制定するまでには至っていないというのが現状です。
海洋散骨に許可や申請が必要な場合は?
「海洋散骨を行う際は、基本的に許可や申請は必要ありません。」と紹介しましたが、例外があります。
地方分権が進み、国内では散骨に関する条例のある自治体が存在します。そして、海外では国によって法律や規定が大きく異なります。
また、墓じまいに伴って散骨を行う場合も申請が必要になる場合があります。ここから詳しく紹介していきます。
法規制されていないからといって、散骨はトラブルに繋がるおそれがないとは言い切れません。そのため、一部の地方公共団体では散骨に関する条例やガイドラインを制定しています。
以下に、3つの市を例として紹介します。
『秩父市内で焼骨を散布しようとするすべての人』について、『墓地以外の場所で、原則、散骨(焼骨を一定の場所にまくこと)をしてはならない。』としています。つまり、個人の所有地でも、墓地でない限り、散骨は全面的に禁止されているのです。
『散骨は、散骨場以外の区域において、これを行ってはならない。』とし、個人的な散骨でも許可が必要とされています。観光や農業で風評被害が出ないよう、公衆衛生の観点から制定された条例です。
熱海市は海にも観光資源があり、節度のない散骨によってブランドイメージが損なわれることがないよう、主に海洋散骨を行う事業者に対しガイドラインを制定しています。『熱海市内の土地から10キロメートル以上離れた海域で行う』ことや、『夏期における海洋散骨は控える』などの項目です。
散骨を検討する際は、海域が属する自治体に許可の有無を確認しましょう。
故人の遺志から、あるいは家族の思い出の場所であるから、と海外での散骨を考えている方もいるでしょう。実際に海外で散骨することは可能ですが、国と地域で文化が違うように法律も異なります。
言葉の壁がある上に法律用語や専門知識も必要となってきます。個人で行わず、海外で実施している散骨業者に相談をしましょう。
故人との新しい想い出作りに家族でのレジャーを兼ねて散骨を行うなど、散骨のオプションツアーを設けている旅行会社もあります。国や地域で必要な公的書類や許可証が異なるため、業者と密に連絡をとって事前の準備段階からしっかりと確認しましょう。
航空機に遺骨を持ち込む際にも、公的書類が必要となる可能性があります。
墓じまいの最終段階に散骨を考えている場合は別途、確認が必要です。前述の通り、条例がある自治体でない限り、散骨について手続きは必要ありません。しかし、墓じまいは「既に埋葬した遺骨を取り出す行為」です。
東京都保健福祉局はホームページには「散骨のために取り出す場合は、区市町村により取扱いが異なりますので、必要な手続きなどを区市町村に確認してください。」と書かれています。「区市町村」に確認した上で、墓地の管理者とも手続きや書類について問い合わせをしましょう。
墓の引っ越しには自治体から交付される「改葬許可書」が必須となりますが、散骨は改葬に該当しません。しかしながら、書類の提出を求める散骨業者もあります。
散骨する遺骨に事件性がないと証明するためにも、書類は用意しておいたほうがよいでしょう。墓じまいには多くの手順が必要になりますが、新たな気持ちで供養ができるよう準備しましょう。
散骨の許可は不要でも海ではマナーを守ろう!
散骨には許可や申請が不要です。だからこそ節度ある散骨にする必要があります。
散骨という言葉をよく耳にするようになりニーズが高まっている今、散骨を請け負う業者がインターネット上に数多く存在しています。節度をわきまえた散骨を実施しているかどうか、これは業者を見極めるポイントの1つです。
故人とのお別れである大切な葬送を気持ちのよい思い出にできるように散骨のマナーについて知っておきましょう。
海洋散骨だけでなくどのような散骨場所を選んでも、守っておきたいマナーを紹介します。
遺骨と判別できないくらいの細かさに粉骨することが必要です。遺骨をそのままの形でまくと、前述した刑法190条に抵触するおそれがある上、事情を知らない人が見つけた場合は大問題になるかもしれません。
散骨場所にロウソクや線香を持ち込みたくなりますが、火葬時に化学物質が入ることがあり危険です。焼香は安全なところで心静かに行いましょう。
遺骨を自然に還すのですから、副葬品も自然に還るものを選びましょう。プラスチックはもとより、「故人が好きだったから」という理由で大量の献酒をしたり、お菓子などの食べ物を一緒にまいたりすることは止めておきましょう。
散骨の捉え方はさまざまで、ネガティブなイメージをもっている方もいます。一般の方の目に触れない場所や時間を選ぶ配慮が必要です。
海洋で散骨を行う場合に守りたい、海洋ならではの注意したいマナーを3項目に絞って紹介します。
広大な海ですが散骨に相応しいポイントは、漁場や航路を避けた海域です。また、沖へ出ることなく海岸や防波堤から散骨することは危険な上、人目につきやすくおすすめできません。人目につけば漁業関係や海水浴場などに風評被害をもたらす可能性があるからです。
船を使って散骨場所まで向かうため、天候に左右されます。荒天の中で強行すれば、参列者ばかりでなく多くの人に迷惑をかけ、葬送どころでは済まなくなります。同乗している人々が心穏やかに散骨できるよう、安全の確保も大切です。
公共交通機関であるフェリーや一般の方が乗る観光クルーズ船から散骨を行ってはいけません。慣習的・宗教的感情を害し、運営団体あるいは同乗の客から訴えられるかもしれません。それはモラルに反する行為です。
まとめ
海洋散骨に許可が必要かどうか、3つのポイントにまとめました。
海洋散骨を行う際は基本的に申請や許可は不要ですが、お墓から遺骨を取り出す際に届け出が必要な可能性があります。現代社会において散骨のニーズが高まっている状況から今後は、散骨に関する法律が整備される可能性も十分にあります。
故人との別れがよりよい思い出となるよう、散骨を検討する際は最新の情報を確認することが大切です。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |