墓じまいで取り出した遺骨はどうする?散骨も選択肢のひとつ
現代にはお墓にまつわる様々な問題があり、「お墓そのものを手放すこと」や「墓じまいを検討する方」が増えています。実際に、お墓に埋葬した遺骨を別の場所へ引っ越す改葬数は、平成30年度の厚労省『衛生行政報告例』によると11万件以上です。
墓じまい後、埋葬していた遺骨が手元に残りますが、新たに納骨する他に「散骨」が選択肢のひとつに挙げられます。墓じまいから散骨までの流れや料金まで、知っておきたい点を紹介していきます。
墓じまいで散骨するメリットとデメリットとは?
墓じまいでお墓から取り出した遺骨は、新たな安置場所が必要です。「永代供養墓」や「納骨堂」などに納める方法がありますが「散骨」することもできます。
散骨するとどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?
散骨で遺骨を自然に還して墓じまいを終えるメリット
散骨を行うメリットを2点に絞って紹介します。
先祖代々続いていた由緒あるお墓を閉じると、お墓に納められている自然に還っていない遺骨が大量に出てくる可能性があります。その場合、新たな納骨先や安置場所を見つけることは困難を伴うでしょう。
それは、永代供養墓や納骨堂によって、1家族につき納骨できる数量を制限しているところがあるからです。散骨を行って供養すると、管理費や維持費が発生しないため、今後の費用もかかりません。
「自分の代でお墓を管理する子孫がいなくなってしまい、将来無縁墓になる恐れがあるから」あるいは「お墓参りや法要に集まる親族が皆、遠方に住んでいるから」という理由で墓じまいをする方は多いのではないでしょうか。お墓に納められていた遺骨を散骨すると、新たに管理する必要はなくなります。
生命保険株式会社の調査によると、散骨を希望している方の理由の上位は「子孫に迷惑をかけたくないから」です。合掌する場所を自由にしたいという感覚がある場合、遺骨を自然に還す感覚の葬礼方法である散骨はおすすめです。
墓じまいで散骨すると起こりうるデメリット
墓じまいの最後に散骨を行うと起こりうるデメリットを2点挙げます。
最近になって一般的に認知され始めている散骨に、よいイメージを持っていない方がいる可能性があります。墓じまいに納得できても、最後に散骨することは拒否する親族がいるかもしれません。
また、お墓を管理してきた菩提寺によっては「墓じまいしたら敷地内の永代供養墓に入るのが条件」と定めているところもあるでしょう。
今まで手を合わせる場所だったお墓がなくなってしまうことは、大きな喪失感を生むかもしれません。後述しますが、今までとは異なる供養の形を見つける必要があります。
墓じまいから散骨の流れと方法は?
墓じまいはどのような流れで何をするのでしょうか?
墓じまいを進める手順を次項から詳しく紹介します。滞りなく墓じまいができるよう、準備をしっかり行いましょう。散骨に関する知識も合わせて挙げていきます。
墓じまいの前に家族や菩提寺と相談しよう
墓じまいは、先祖代々続いていたお墓をなくしてしまうということです。
墓じまいから散骨、さらにはその後の供養について、家族や親族など関係のある方には必ず連絡をしておくことをおすすめします。墓じまいに賛成しても、散骨には反対だという方がいるかもしれません。
また、属している菩提寺に墓じまいの意思を早めに伝えましょう。墓じまいは、お墓を供養してくれていた寺院の檀家をやめることでもあります。法外な離檀料の要求や、閉眼供養の拒否など、トラブルに繋がってしまうことのないよう、菩提寺との相談は密に行うべきです。
お世話になってきた寺院に感謝の気持ちを持てば、滞りなく墓じまいが進められるでしょう。
墓じまいで散骨を行うには何が必要?行政手続きは?
墓じまい後に散骨を行う場合、基本的に行政手続きは不要です。
東京都保健福祉局のウェブサイトには、『他のお墓や納骨堂などに遺骨を移す場合は区市町村による改葬許可が必要となりますが、散骨のために取り出す場合は、区市町村により取扱いが異なります』と記載があります。
散骨は明文化された法律がなく、基本的には自由な葬送方法です。しかし、自治体によっては独自に条例を制定しているため、散骨するエリアの確認が必要となります。
一度埋葬されていた遺骨を散骨する場合、事件性のない遺骨であることの証明である「改葬許可証」の提出を求める業者もありますので「遺骨引き渡し証明書」と合わせて、市区町村の役所で確認しておきましょう。
閉眼供養と工事で更地にして管理者に返還する
墓じまいは、お墓を撤去し更地にしてから、寺院や霊園に返還して完了です。
お墓から遺骨を取り出す作業とお墓の解体撤去は、石材店が行います。寺院によっては、担当する石材店を指定されることがあるため、菩提寺と石材店に相談する必要があるのです。
当日は、お墓に宿っている魂を抜き取るための法要(閉眼供養)を行った後、遺骨を取り出します。お経をあげ供養をしてくださった僧侶には、お布施を渡します。お布施に相場はありませんが、今まで管理し供養を続けてくれた寺院に感謝を込めた金額が好ましいです。
列席者は、先祖にも感謝する気持ちで儀式に臨みましょう。
後日、石材店が解体工事に入り、使っていた区画を更地にして原状回復します。お墓のために借りていた土地をお返しするという感覚です。
なお、散骨業者に提出を求められる場合がある「改葬許可証」には、お墓の管理者の署名捺印が必要です。行政書類の回収も忘れずに行いましょう。
散骨のために粉骨する
お墓から取り出した遺骨を散骨するためには、パウダー状に細かく砕いておく(粉骨する)必要があります。
お墓に埋葬されていた遺骨は汚れている上に湿気を吸い込んでいるため、そのままの状態では粉骨することは難しいです。サラサラのパウダーにできるよう、遺骨の洗浄と乾燥はしっかりと行いましょう。
お骨がパウダー状ではなく、砂利状の場合は、散骨時にボトボトと落ちてしまい、まきにくい上に環境にもよくありませんし、社会的に問題になるかもしれません。
自分で粉骨を行う場合は料金を抑えることができますが、洗浄して乾燥し、異物を除去した後に硬い焼骨を粉状にする作業は、心身ともに大きな負担となります。遺骨の洗浄から粉骨まで、専門的に取り扱っている業者に依頼することをおすすめします。
散骨は一般的に想起されやすい海洋散骨以外にも、さまざまな種類があります。
沖合に船で向かい、散骨を行います。チャーターしたり、散骨用のクルージングに参加したり、乗船する便によって方法は異なります。
個人の所有地や散骨専用に用意された土地、島に散骨を行います。海洋散骨に比べて少ないですが、風光明媚な場所であることが多いです。
文字通り、宇宙に遺骨を送り届ける葬送方法で、ロケットや軌道衛星に乗せたり、バルーンで成層圏に飛ばしたりします。故人の夢を叶えたい家族におすすめです。
セスナ機やヘリコプターに乗りこみ、空中から海洋方面に向かって散骨します。
散骨は自由な葬礼方法ですが、遺骨をまくという性質上、マナーを守らなければトラブルに繋がってしまうため「節度をもって」散骨することが大切です。ここでは、代表的なマナーを3つ紹介します。
遺骨だと分からないサイズ(2mm以下)まで粉砕しておく必要があります。遺骨をそのままの形でまくと、刑法190条(遺骨遺棄罪)に抵触するかもしれません。
散骨に対して肯定的な考えの人ばかりではありません。場所の選定は慎重に検討する必要があります。
遺骨を自然に還すのですから、副葬品も自然に還るものを選びましょう。
墓じまいで散骨したら供養はどうする?
墓じまい後に散骨を行った後の供養はどうすればよいのでしょうか?
全て遺骨をまいてしまうと、手を合わせる場所がなくなってしまい寂しく思う方もいることでしょう。ここでは、散骨後の供養方法と手元供養について紹介します。
故人を想う時間を家族の新しいイベントにしよう
全ての遺骨を散骨した場合、何も残らず、心の拠り所がなくなってしまうのではないかと心配に思うかもしれません。
遺骨がなくても合掌するための仏壇を設けることができますが、故人の在りし日を偲んで語り合ったり、散骨した場所へ旅行したり、家族の新たなイベントを作るのもおすすめです。家族と共に楽しいひとときを過ごすことは、供養になるだけではなく、故人を失った悲しみや苦しみを乗り越える一助となるでしょう。
手元供養という選択肢もある
遺骨全てを散骨するのは抵抗がある場合、少し手元に残しておくこともできます。散骨はまく量も自由なのです。
散骨するためにパウダー状にした遺骨は、焼骨そのままに比べ容積がかなり小さくなります。自宅に安置できる小さめの骨壺や容器に入れ、自室の一角に手を合わせる場所を新たに設けることも簡単です。今では、お部屋のインテリアになじむシンプルなデザインの仏壇やおしゃれな骨壺もあります。
また、故人といつも一緒にいたいと思う方には、遺骨を収納する部品があるアクセサリーがおすすめです。遺骨そのものから抽出した炭素を使ったダイヤモンドを作っているメーカーもあり、手元供養の種類は多岐にわたります。
墓じまいで散骨を行ったら費用は?料金の相場とは?
お墓に関する経済的な負担が減るという理由で墓じまいと散骨を行う方もいるでしょう。気になる墓じまいの費用相場を紹介します。
墓石の撤去を含む金額です。お墓の大きさや種類、区画の場所によって大きく異なります。
お墓から骨を取り出す作業に発生します。
いわゆるお布施で、僧侶にお礼として支払います。寺院に対して支払う代金は、お布施以外に離檀料があります。
この他にも、行政書士や葬儀業者に相談している場合は相談料がかかりますし、書類の発行代金や墓じまい後の散骨など、さまざまな費用が生じるでしょう。
墓じまいは離檀料がかかることもある
墓じまいを行うと、菩提寺の檀家をやめる(離檀)ことになります。
檀家は菩提寺にお墓を供養し管理してもらう替わりに、お布施を納めてきました。寺院の経営は檀家からのお布施で成り立っているところが多く、離檀されてしまうと経済的に直接影響が出ます。
寺院によっては墓じまいの際、離檀料を求める場合があります。離檀の相談をせずに墓じまいの準備を進めてしまうと、離檀料が法外な値段だというトラブルに発展しかねません。
費用は散骨の方法によっても異なる
散骨にかかる費用は種類や方法によって大きく異なります。
船で散骨場所まで向かうため、乗船する状況やプランによって値段の差が見られ、代行散骨にすれば、値段を抑えられる傾向にあります。
バルーンタイプからロケットに搭載するプランまで、金額の幅が最も大きいです。
チャーターする乗り物により値段が変わります。
墓じまいで散骨を行うにはどこに頼む?
墓じまいと散骨を行う場合、どこに相談をすればよいのでしょうか?
墓じまいの相談を受け付けているところは以下になります。
- 散骨業者
- 葬儀店
- 仏具店や石材店
- 行政書士 など
墓じまいから散骨まで、一貫して請け負う業者もありますが、たいていは墓じまいの相談と散骨の相談先は分かれます。
葬儀店は文字通り、葬儀を中心とした業者で、仏具店や石材店はお墓の専門家です。行政書士は手続きを代行することに特化しています。
お墓から取り出した遺骨の取り扱いから散骨までフォローしてくれるのは、散骨業者です。悩み別に自分に合った依頼先を選びましょう。
もちろん、菩提寺と石材店に連絡を取り、墓じまいを自分で進めることもできます。
まとめ
墓じまいと散骨はメリットがある一方で、一度行うと元に戻すことはできません。先祖だけではなく、未来の子孫を含めた家族にとって、より良い選択になるよう時間をかけて相談することをおすすめします。
著者情報
未来のお思託編集部 散骨、お墓、終活などの準備に関する様々な知識を持つ専門チームです。皆さまのお役に立つ情報をお届けするため日々奮闘しております。 |